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お互いに状況が掴めないまま少しの時間が経過し、獣は考えて、考え続けた結果、深い息を吐き頷いた
何かを理解した様子だが、私には何もわからない
「 取り敢えず、話は後だ。確か…山小屋があった。そこで話そう 」
「 う、うん…… 」
連れて行ってくれるのは助かるけど
そんなサラッと言葉を発しられたら驚くし、ちょっと怖いんだけど
猛獣なら話せるし魔法が使える、って言われたけど
こんな言葉を話す動物が他にもいるなんて…見たくないんだけど
人面魚とか出て来たら失神する自信がある
今だって叫ぶの我慢して、冷静を気取っていたけどやっぱり違和感はある
口を動かさず、発してるのは分かるけど…それがまた恐ろしい
人間みたいに口、ではないけど嘴をパクパクされるのも怖いけどね
「( インコが人の言葉を話してるアレ……アレだ…そう、アレだと思って…… )」
インコみたいなカタカナで発してるようには聞こえないが、知能が高い九官鳥やオウムみたいなもんだと必死に自己解決をしながら着いていく
「 そう言えば…素足だったな 」
急に話し掛けられた事に驚くも、獣は脚を止め此方に顔を向け足元を見てから、身体をしゃがめた
「 乗れ……。許す 」
「 えっ……重くない? 」
「 乗れ 」
寧ろ身体は大丈夫?って言いたいが、乗れと言われたなら、拒否権は無いらしい
仕方なく、乗ろうと身体に触れるもどこに乗ればいいか分からない
「 羽の内側に脚を……ったく… 」
しゃがむ程度じゃ乗り辛いと察してくれて、伏せになってくれるも
其れでも跳び箱のように軽く跨いで乗る必要がある
「 んしょ……出来た? 」
「 猛獣使いなら、馬にでも乗る練習ぐらい、するだろ… 」
「 乗馬なんて無縁だよ…。動物に触れ合った事すら滅多にないのに…… 」
野良猫とか、鳩に餌をやることしかしなかった
遠足や旅行に行った記憶がない為に、動物園も水族館も経験がない
此処まで獣に触れれるのは、逆に触れたことがないからだと思う
やっと羽の付け根に当たらないよう乗れて、毛を軽く握る事が出来れば、獣は立ち上がった
前後に動く振動に驚き、掴む手に力が入るも獣は歩いていく
前脚が鳥だからなのかは分からないけど、前と後ろでは少し振動が違う事に動揺して
振り落とされないようギュッと握っていれば獣は言葉を告げる
「 何となくそんな気はしていた。俺を恐れはしなかったからな… 」
「 そんな余裕ないぐらい。ぶつかった事に驚きました… 」
「 そうだろうなぁ。俺も移動中に空から人が落ちてくるとは思わなかった 」
「 移動中って、どこかに行ってる最中だった? 」
まさか、足止めさせてしまった?と少しだけ驚けば
獣は反応をすることなく、平然と答えた
「 住んでいた場所を離れただけだ。行く宛を探してる時だった…… 」
「 なんで…離れたの? 」
「 ……密猟者だ。珍しい猛獣を捕獲して奴隷商人に売り渡す連中だ。猛獣使いの見習いは…そんな奴隷商人から買う奴が多いはずだが…御前は一体も持ち合わせてないな? 」
此処が日本だとは思えなくなってきた
密猟者なんて、海外で聞くことだけど
彼のような獣は確かに見た事は無かった
問い掛けるように此方へと視線が向いた金色の目を見れば、苦笑いが浮かぶ
「 そんなの知らないよ……。私は猛獣使いじゃ無いし…… 」
「 御前はヒューマンだろ?それに、俺の真名を言い当てた。猛獣使いで無ければなんだ。エルフにも巨人族にも見えないが…人魚は滅多に陸には来ないしな…… 」
「 待って…そんな種族がいるの?どういうこと? 」
この国、いや…世界…は一体何だろう?と疑問になるほどの単語に一つ一つ整理したくて問えば、獣は答えた
「 何も知らないんだな。なら…教えてやる 」
「 すみません…丁寧に教えてください 」
農民か、とポツリと呟かれ
地方民なのは実感するけど、田舎では無かったはず
其れでも、ファンタジー系な事は知らないと申し訳なくなれば獣はゆっくりとこの世界がどんな場所か、1から教えてくれた
この世界は地上に舞い降りた
3頭のドラゴンによって生まれた
1頭は知性を司り、2頭目は感性を司り、3頭目は理性を司ると言われ
其々は、この地に獣を生み出した
知性を持ち魔法を使えるエルフ族、感性を持つ強靭な肉体の巨人族、理性を持ち平和を望む人魚族
其々は地、天、海で永く平和に生きていたが、死する事のないとされていたエルフの中で短命の者は森を離れ、獣と恋をしビースト族すら新たに生まれていく
一番種族が多かったエルフの中で、魔法が使えないものをヒューマンと呼んだ
それが人間の始まりらしい
人間は短命である為に、繁殖頻度が増え、数を増やしていき、エルフの時に備えた知性を使い次々に新しい物を作り発展していった
古き姿を残し、静かに暮らすエルフは森の中に姿を消し
ヒューマン(人間)の数だけが増えていった
争いに関与しない巨人や人魚の存在が御伽のように幻となる中で
ヒューマンとエルフは度々、領土争いを行っていた
エルフの多彩な魔法を回避するべく、ヒューマンは己の力を結晶化させる能力を持つ者や、猛獣を使役して戦わせる猛獣使いなどが現れた
永きに渡る戦いは3頭のドラゴンによって終戦し、それから千年の月日が流れ
エルフは森に、ヒューマンは森より外の平地に土地を分けた事で安定した
猛獣はドラゴンの血筋を受け継ぎ原型を留めてる小型ドラゴンから、大型ドラゴンまで存在し、生きていく中でそれ等の一部は体化していった
犬や猫、馬や鳥がいるようにドラゴンの外見ではない生き物を″ 猛獣 ″と呼ぶ
ヒューマンの中で、その猛獣達の魂に刻まれた″ 真名 ″を読み取る力があり、命令が出来、自らの手足のように扱える者を猛獣使いと呼ぶ
職種ではなく、そういった人間らしい
戦後の名残であり、今は猛獣使いは滅多に存在しなく
変わりに力で猛獣を従える習慣があるらしい
それは言い換えれば、私がいた世界のペットや家畜のよう
どちらかといえば家畜寄りだけど、見世物のように持ってるだけや、ひたすらこき使う者もいるらしい
猛獣使いと違う点は、真名を知らず恐怖で支配させる為に一方的だと…
中には家畜化した猛獣達は、生まれながらに人間の元で過ごす為に違和感無く生涯を終える
彼みたいな、野生種を扱えるのは真名を知る猛獣使いのみ、だと教えてくれた
だから…私を″猛獣使い ″と呼ぶ
職ではなく、そういった力を持つ人間のことを指す
他にも王家に使える騎士、弓使い、魔法騎士、魔術師、暗殺者、司祭、占星術師、道化師、薬師など、言い切れない程の職がある
勿論、大工や料理人とか知ってるような職の人たちも沢山いるらしいけど
生まれながらの天賊の才と呼ばれるのは、
猛獣使いだけらしい
猛獣使いだけは、ドラゴンに認められた
猛獣の真名を知ることの出来るヒューマンだと
神の存在は無く、ドラゴンが神様みたいなものだと知ってちょっと驚いてるし
色々聞きすぎてこんがらがってるけど、何となくは把握した
「 私の居た世界とは違うってことは、わかったよ…… 」
出会ったのがグリフォンぐらいで実感はないけど、納得することにした
もう…死ぬ前に頭を使いたくは無いし
「 御前は稀に聞く異世界人と思っていたが…戻って来ただけだろうな 」
「 戻ってきたって…? 」
「 逆トリップしたんだろう。こっちで生まれたはずが…何かの拍子で、御前の言う世界に行った。そして帰ってきたから…その姿に戻っただけだ 」
だけだ、と言われても理解が……
いや、出来ないわけじゃ無かった
私には幼い頃の記憶がないのだから…
そして、傷跡は残っている
野犬にしては大きい爪痕のような傷は、まるで大型の熊にでも襲われたようだと
だけど、そんな傷を背負ったまま町中にポツリと立ってるのは可笑しいと…
大人達は考えるのをやめた…
そして私も考えるのをやめた
「 そんな訳ないよ…… 」
力無く否定することしか出来なかった
戻って来た拍子が飛び降り自殺をした事で、なんて言うなら…
あの世界に行った時も死にかけたから…なんて…思ってしまう
そんなはずはないと納得したかった
「 どっちにしろ、御前が猛獣使いなのには変わらない。俺の真名を言い当てたんだからな…あぁ、真名では呼ぶな。名を付けろ…それで呼べ 」
猛獣には名前がない
名で呼び合わないからこそ、人間らしく名前が必要だと
人間が幼い頃に、親に名付けられるように…
彼にとって私は親…親にしては年齢が逆の雰囲気はするけど
深く考えず、名を決めた
「 碧空……。私は瑠菜だよ 」
「 リクか……。嗚呼、ルナ…。不出来な主として認めてやろう 」
「 そりゃ、どうも 」
蒼き空を飛べるのに、私の為に陸を歩く、リク……
なんて単純な名前だけど気に入った
リク、軽く首元を撫でれば獣はどこか目を細めて歩くテンポは弾んだ
やっぱり、素直な獣だと思う
でも、主か……
ペットみたいな獣が増えたなら、死に辛くなるんだけどな
一人だったから死のうとしたのに、独りじゃなくなるのだろうか
それなら、少しだけ…ほんの少しだけ嬉しいかも知れない
「 着いたぞ、埃っぽいが許せ 」
「 ありがと、なら少し綺麗にするだけ。手伝ってね、リク 」
「 ……仕方無い…か 」
樵が使うような小さな小屋
永く使われてないのか埃っぽく、弦が巻かれてるが休むぐらいなら十分
まずは埃を払ってしまおうと、思っていれば
リクは小屋に向かって息を吹きかけた
「 へっ……? 」
左右に飛ぶ土煙に驚きキョトンとすれば、一瞬で埃が消えた
あれ?掃除するんじゃ無かった?と疑問になっていれば、ドヤ顔でグリフォンはこちらを向く
「 俺の属性は水と風だ。風を扱う魔法なら幾らでも使える。覚えていろ 」
「 あ、はい…… 」
流石異世界、と思い他に考える事を停止させた
部屋に入れば埃があったように思えないほど隅々まで綺麗になっていた
狭いと呟くリクをよそに、ベッドへと座る
人様の家を使うなんて不法侵入みたいな感じがして仕方ないが、休むぐらいなら…と自分に甘い考えでベッドへと横になる
「 寝るのか? 」
「 色々聞き過ぎて疲れただけ……。それに、次の死に方を考えるから…… 」
「 ………… 」
今は寝たいと、目を閉じればリクは嘴で毛布を持ち上げ身体へと掛けてきた
私が飼い主だという、実感は無いけど彼には飼い主と分かるのだろうね……
真名を知られ、呼ばれた事にどれだけの意味があるかは知らない
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