02 初任務と昇格試験をしてみた

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軽く振り返ればリクは拳を握り締めてガッツポーズしたままなのが、異常に腹が立つ いざとなったら助けるからっていいご身分だね!って思い、ゆっくりと近づけば 此方に気づいたウルフ達は私に気づいた瞬間、牙を剥き出した 「 グルルル…… 」 「( あ、終わった )」 気付かず近付くなんて、狼相手に出来るわけもなく 早々にバレて既に手汗やら酷い リクのときは死にたがりモードだった為に怖くなかったけれど、こんな大きくて数もいる狼に囲まれたら、恐怖でしかない けれど、狼は唸ったまま襲ってくるような雰囲気は無いために一歩ずつ歩いていく 脚が重く、先に進みたくないと思う 背後を囲う狼の気配に、口から心臓でも飛び出して来そうだよ それでも岩場の頂上付近に辿り着けば、リーダー格の狼は唸ることも無く、堂々と目の前に現れた 綺麗な毛並みと、凛々しい顔立ちはリクとは違った風格がある そして何より、毛並みが銀色ではなく金色に変わり掛けてるように見える 「 私ね、武器持ってないよ 」 丸腰だと両手を上げて、その場で軽くしゃがみ込めば、ウルフ達は匂いを嗅ぐように近付いてスンスンと鼻を鳴らす 彼等はリーダー格の命令がない限り、襲って来ないんだと知った 匂いを確認してから、ウルフ達は少し離れリーダー格へと視線を向ければ リーダー格の方からゆっくりと近付いてきた 目を見ればウルフアイのシルバーの瞳は私と目が合い、咄嗟に軽くそっぽを向けば彼は顔を寄せ、首筋やら服へと匂いを嗅いだ 「 何故…何も持たず、来た? 」 「( 喋った……って、やっぱり…そのランクだったんだ )」 リクが任せたのはきっと話が通じる相手だと知ってるからだと思った なら、話が分かる相手なら…と素直に告げる 「 シルバーウルフの毛皮が欲しくてやって来た 」 その言葉に、彼等の目の色が変わり警戒態勢を取るが直ぐに言葉を続けながら地面に座り、軽く脚を伸ばす 「 でも、私は殺したくないから…それは嫌だ。だから…ブラッシングさせてくれない?抜け毛を加工して、毛皮に変えるからさ 」 ベルトに差していたブラシを手に取り、見せればリーダー格の眉間にはシワを寄せた 理解出来ない様子だが、私だって理解出来ないと思う 毛皮では無く抜け毛を頂戴なんて 全く、何言ってんだこいつ?みたいになるだろう それは分かるからこそ、否定のしようがない 「 やってみろ 」 「 ですが、リーダー!もし怪我でもしたら 」 「 その時は私の判断が間違っているだけだ。小娘…身体に触れることを許す 」 先に部下ではなく、上司自らが責任を背負う感じがして感心がする イノシシなんて、罠らしきものがあったら我が子に確認させて、子供が捕まったら一目散に逃げるというのに… 狼は凄いな、と思いながらリーダー格の首元に手を当て触れる 「 じゃ失礼します。綺麗な毛並みだね……。膝の上に顎乗せてていいから、ブラッシングさせてね 」 リクとは違った硬い犬のような毛並み 長く鋭い毛がダブルコートのように深くまで皮膚を覆っていた 軽くブラッシングしただけで、ブラシに付くのを見て流石、野生種だと思う 幾らでも抜けてくる毛が逆に楽しくなってきて、丸い毛団子を作りながらブラッシングをしていれば リーダー格の彼は、素直に膝に顎を乗せ、耳を下げていた 気持ち良さげにしてるのを見て、他のシルバーウルフ達もまた耳を下げ、近づいてくる 「 リーダーの次は…どうか、僕も…… 」 「 俺も、されてみたい…… 」 「 いいよ。抜け毛は沢山必要だから皆にするね 」 リクの言った通りに、リーダー格が気を許せば他の狼達も気を許していった 周りに横たわった狼だけになれば、リクは平然と現れて、ブラッシングを協力することを告げ、仲間入りした ランク高いの気付かないもんなんだ!って思いながら二人で全員をブラッシングしていった 「「 スッキリしました! 」」 「 うん、細くなった? 」 まるでハスキーのブラッシングをした後、みたいな感覚だった あんなに、一頭ずつ袋が一杯になるほど抜けたのに、細くなった気がしない けれど彼等はスッキリしたとばかりに尻尾を振っていた 私達の身体は毛まみれになってるが、沢山の抜け毛が取れたなら良かったと思う 「 その…また…来てくれるか? 」 「 来るよ……シа…むぐっ…… 」 耳を下げて問い掛けてくるリーダー格にキュンとして無意識に名前を言おうとしたら、リクは手で口を塞いだ 首を傾げてたリーダー格だが、リクは早々に私の手を引き肩にサンタクロースの袋を幾つも束ねたような袋を持って歩き出す 「 それじゃ、またな。シルバーウルフの抜け毛は高価だから、来るさ 」 「 そ、そういうこと…またね! 」 危なかった!!マジで危険だったと思いつつ、片手で手を振ってから歩く 「 …油断して言おうとしたな? 」 「 もうサラッとゲロりそうになったよね。なんかね、名前はスッと落ちてくる感覚ぐらい分かるんだ…… 」 「 ドラゴンに選ばれた天性だからな。選ばれた…… 」 「 ん? 」 「 いや、何でもない 」 何かを考えて、言い掛けたようなリクだが 誤魔化すように首を振って言葉を止めた 一瞬、此方を見た表情は何かを思い出すように考えてる感じだったけど、下手に聞く気はない 「 わぁ!こんなにもありがとー!依頼は達成出来たわ! 」 「 えっ? 」 「 抜け毛の採取の任務も同時にあってな。こっちは抜け毛と交換に20個の毛皮をくれるが…この量があるんだ。追加で25個を作ってくれるか? 」 「 もちろん!銀の糸もオマケしとくわ 」 服を作るために必要な銀の糸、シルバーウルフの毛が編み込まれてる為に 防寒性があり、耐熱性にも優れているらしい というか…私が知らない間に他の任務も同時に受けてたなんて、流石…リクだと思った 「 毛皮は間に合ったけど、服は明日かぁ…こんな…毛だらけなのに…… 」 「 嗚呼、もう…抜け毛も必要ないしな。飛ばそう 」 45個の毛皮の依頼も終わり、重いお金はリクが管理することになった 店を出て一息つくも、自分の格好を思い出せばリクは軽く手を叩いた 叩くように飛んでいく抜け毛は、風に揺れどこまでも遠くへと行く 「 殺さなくとも任務はクリア出来るなんて…ちょっと嬉しかったよ 」 「 ちょっと?かなりだろ。戯れてる時が楽しそうなのは知っている 」 「 ふっ、やっぱり?ほら…晩御飯にしよう。何を食べようかなー 」 楽しくないと思っていた人生 けれど、沢山の狼に囲まれてモフモフして、ブラッシングを喜ぶ姿を見ていれば、楽しいと思うのは必然だった 「 いらっしゃいませ。ご注文がお決まりでしたらお呼びください 」 目に付いた酒場込みの飲食店に入り テーブルに座れば店員のような私服姿の男性が、メニューを置きに来た コップに入った一杯分の氷水は無料なのは、元の世界らしいとどこか思ってから、メニューを開く 「 何食べようー。色々ある!リクは何食べる? 」 「 俺は…飯を食わないから必要ない 」 「 えっ?そうだっけ? 」   果物を食べてた記憶はあるし、他の猛獣も食事をするのは知っている リクが食べない?って事に疑問になれば、彼はコップを持ち水を数回に分けて飲んだ 「 そういう種族なんだ。御前が毒とか思わないよう食べていたが…普通は必要ない。それに…好んで人間の料理なんて食わない 」 キッパリと断ったリクが、何故…私に魚やら肉を持ってこないのか分かった気がする 彼は命あるものを殺すことを好まない種族なんだ 見た目は鷲のように、獰猛な肉食系だけど 本当は草食動物のように果物しか口にしないんだね 「 そっか、なら私だけ食べるね。そうだな…ビーフシチューにしよう 」 「 俺は… 」 注文をする為に手を上げて店員を呼べば、彼はポツリと呟いた 「 人の料理は食わないが、ルナが作るなら…食べれると思う 」 「 そんなスキルはないから、作らないよ。あ、ビーフシチューとパンをお願いします 」   料理が出来ない訳じゃないけど、包丁を握ったら自分を刺すと思う それはきっとリクも望まないから、私は包丁を握る気はない ビーフシチューは特別美味しくも無ければ、不味くもない、これと言って普通の味だった けれどそれが逆に親しみやすい味なんだろうと思うぐらい、もう一度食べていいと思った 「 一旦小屋に帰ってから。明後日、装備が出来たら取りに来よう 」 「 うん、今日はゆっくり寝たい 」 シルバーウルフの毛皮の依頼は 金貨30枚だった 案外、お金は溜まりやすいと思う 依頼の内容によるかもしれないけどね どんな装備が出来るのか、そう考えると、 ちょっとだけ新しい服が買えるような楽しみがある 余り、この世界の事は分からなかったからリクが決めた装備だけど、世界観に合わないシャツとジーンズよりマシだと思った 楽しみだと、そう時より笑う私にリクもまた笑みを返してくれていた 「 待たせちまったなー。依頼されていた装備は出来たぜ! 」 如何にも鍛冶場職人っていう雰囲気の、 筋肉マッチョのオジサンはこの町に住む方 リクと知り合いかな?と思ったけどそんな事はなく、彼にとって私達は初めてのお客さんになるらしい 「 急かしてすまなかった 」   「 いや、良いってことよ!珍しい魔法石も見れたしな!お嬢ちゃん、向こうに試着室があるから着てみてくれよな 」 「 ありがとございます…… 」 魔法石?そんなもの、渡して無かったはずだが…と思うけどリクに視線で合図された為に仕方無く服が入った袋を抱え、試着室を借りる事にした 「 フード付きだ…。えっと、こっちは…… 」 普段の着やすい服装とは違って、ちょっとややこしいと思う 背中側のファスナーも何とか引き上げれば、胸元が見える為に、フードの結び目で胸元を隠し、一緒にはいっていた白いリボンのついたブーツも履く シルバーウルフの糸や、毛で作ったからかほぼ真っ白に見える服は綺麗だと思った 向こうの世界のように鏡がないから、ちょっと自分と服装がどんな風に似合ってるのか分からないまま、カーテンを開く 「 …着てみたけど、どうかな? 」 ブーツが長いとは言えど、膝丈のスカートを履いたのはいつぶりだろうかと思う 二十歳の私が、こんな格好をして良いのだろうかと不安を抱え、感想を待っていればリクの反応が無い 「 ん?リク? 」 逸してた目線を向け、リクを見れば彼は僅かに口を開け硬直していた えっ、そんな驚くほど似合わなかっただろうか? そりゃ、若くてピチピチしてないから若作りに見られそうな服装だけど! 選んだのはリクなのに!なんて文句を言おうとすれば、彼はやっと答えた 「 あ、いや……似合ってる。ウルフの毛だから軽いだろう? 」 「 確かに軽い、脚も速く走れそう 」 「 そりゃ、全身シルバーウルフの装備だからな。耐熱、防寒性には優れ。移動速度もupする機能がある。後はお兄さんが着けろと言って渡した、スカイドラゴンの魔法石が着いてるから防御力はお墨付きさ 」 「 スカイドラゴン? 」 魔法石がそれなりに高価で、珍しいのは商人の話やら卵を買う場所で聞いていたから知っていた けれど、そんな物をリクが持っていたなんて知らなくて、首を傾げればオジサンは楽しげに告げた 「 そう、ドラゴンって大まかに、古代種。現代種の2種類に分かれてる。古代種は伝説に登場する3体のみだが。現代種はドラゴンの姿をしてる猛獣に分類される。大型、中型、小型と細かく分かれていくんだが… スカイドラゴン、別名を″ 天空竜 ″そいつは、古代種なんだ 」 「 えっ、それってすごくない? 」 「 かなりのレア物だ!古代種の物なんて最高ランクの鉱山を発掘するしか手に入らないからな。爪でも、牙でも魔力が含まれてるからそれを魔法石として加工したのが、お嬢ちゃんに使ったそれさ 」 胸元にあるブローチの中心に嵌め込まれた金色の魔法石 これに古代種であるスカイドラゴン(天空竜)の一部が含まれてるんだ ドラゴンの話なんて、御伽なんて思っていたけど私が身に着けるなんて…なんだか、おかしな事だと思う 「 へぇ……。って、何が凄いのかイマイチ分からないけど 」 スゴっと古典的に転けたようなオジサンは苦笑いを浮かべるも、リクは口を離さんだ 「 ドラゴンの魔法石はそれだけで防御力に特化してる。ゴタゴタの鎧なんて着たくは無いだろう?だから使わせたんだ 」 「 確かにゴタゴタはやだな……ありがと、リク! 」 私がゴタゴタの鎧を着て歩き辛そうにしないように、レアアイテムをくれたんだ ブローチやらアクセ系は取り外せて新しい服装の時に使っても、防御力はあるらしい これだけでも十分、効果あるなんて嬉しいな 「 それにしても天空竜の物なんてよく見つけたな?他の2体より見つからないと言われてるのに…お兄さん、どうやって手に入れたんだ? 」 「 高ランク任務を受けてる最中に見つけた古いものだ。残っていたから与えた 」 「 残っていた…ってことは、リクの装備の所々に着いてるアクセって……ドラゴンの魔法石?? 」 「 そうだが? 」 当たり前のようにサラッと言われたけど、全身高ランクのアイテム着けてる人っていないんじゃない? 鍛冶場のオジサンも唖然としてるぐらい、驚いてるんだから きっと私が思ってる何倍も凄いことなんだろう 「 リクって実は凄い人(獣)? 」 「 そんな事は無いがな。ほら、装備を身に着けたなら次はBランク昇格試験の任務に行くぞ 」 「 えっ、もう?もう少し休憩しようよ 」 「 後回しにするのは面倒だ 」 休憩と言っても、リクの背中に乗って来たからそんなに歩いては無いとしても やっぱり疲れると思っては、オジサンにペコリと挨拶してからリクを追った 「( 天空竜すら幻とされていたのに…実在していたと証明されるなんて…。あのお兄さん……どこで手に入れたんだ? )」
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