スマートな僕に

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「なにをしてるの?」  異様な状況に、思わず僕の方から近づいて声をかけてしまった。  とうの本人は澄ました態度を貫いている。おもむろにダンボール箱の中から大学ノートを取り出して、こちらに向けた。 「『拾ってください』? って藤野さん、僕に拾って欲しいの?」  目を細めてうなずいた。  あの頃より少し大人びた藤野さんは、控え目にいって可愛い。セミロングの黒髪は変わらない。目鼻立ちがよりくっきりして、輪郭もシャープになった気がする。首にはうす桜色のチョーカー。細身な体型。お洒落な明るい私服は、今をときめく女の子だなぁ。  思わぬ展開に言い淀んでいると、藤野さんは何かをペンで書いてからページを捲って見せた。 『9月20日までの間だけ』  間だけ、といってもほぼ三週間ある。そもそも拾うって、その後はなにをどうすればいいのだろうか。  藤野さんがどう思っているかは分からないが、すくなくとも、僕にとっては返すべき恩のある人だ。ほとんど話したことのない人だけど……。あの時は黙っていてくれて本当に救われた想いだった。  藤野さんは傍から見ていて、真面目な人だなぁ、という印象だった。あの頃は筆談ではなく、普通に人と喋っていたけど。  きっとこうしているのにも理由があるんだ。いじめられてこうしているのか……。現実逃避でこうしているのか。わからないけど、人の助けを必要としているんじゃーないだろうか。 「う、うん。僕で、よかったらだけど」  僕は一度差し出した手をすぐに引っ込めて、手のひらの汗を拭った。拭っても拭いきれない湿り気に、手を差し出すことを諦める。  藤野さんが愛くるしい顔で立ち上がる。僕の情けない握りこぶしを優しく掴み、突然走り出した。
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