スマートな僕に

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『今までありがとう!』  息を切らした僕に、藤野さんは笑顔を向けてくれる。感謝をされるのは初めてだ。 「礼を言うのは僕のほうだよ」 『私ね、喉の手術をしてね、もう声を出せないの』  あらかじめ大学ノートに書いてあったのだろう、ペンで書くことなく1ページずつめくっていく。 『明日、遠くへ引越しをして大きな病院に数年間入院します』 「そう、なんだ」  ショッキングな内容だった。結局僕は、なにもしてあげられなかったんじゃーないか。 『もう自分に価値がないような気がして、人生ヤケになってプチ家出をして、誰にも拾われない捨て犬の気持ちに浸っていたら、あなたと出会いました。――覚えていますか? 中学の時のことを』  ずいぶんと範囲の広い質問だったけど、あの時のことだろうなぁ、とすぐに思い至る。  僕がうなずくと、藤野さんは急いでページをめくる。1ページ飛ばして2ページめくった。 『覚えていてくれて嬉しいです! あの時は邪魔をしてしまってごめんなさい』  藤野さんはノートを突き出して頭を下げた。 「ちょ、ちょっと待って。どうして藤野さんが謝るの? 悪いことしたのは僕のほうだよ。あの時は、へんなもの見せてごめん……」  藤野さんは戸惑った様子で新たなページにペンを走らせていく。
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