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 それからというもの僕は日に日に彼女への思いが募って行き、それに連れて深く恋に落ちて行った。そして身を焦がす程の恋となり、食事が喉を通らない程、思い詰めるようになった。  僕は思春期に於いても、こんな重い心境に陥った事はなかった。紛れもなく初恋・・・で、仕事をしている時も彼女を思うあまりミスを犯すことが間々あった。これはもうどうしようもなく抑えがたい只ならぬ感情だった。欲情と愛情が絡み合い激しく悶え苦しむものだった。時にはどうしても夢美を欲しくて堪らなくなって胸が張り裂けそうになった。  到頭、僕は何が何でも告白しなければ気が収まらなくなり、この儘、告白しないでいたら一生後悔すると思って意を決し、彼女と出会ってから2週間目の日曜日に朝から身支度した後、車で出かけて彼女の家を思い切って訪ねてみた。  インターフォンを押す。 「ピンポーン!」 「はい、どなたさまでしょう?」  お母さんらしき声。僕は激しく動悸しながら答えた。 「あの、佐伯と申します」 「さえきさん?」と向こうは怪訝そうに答えた。「どんな御用でしょう?」 「あの、夢美さんはいらっしゃいますか?」 「ゆ、夢実は・・・」と向こうは声が途切れ、静まり返り、少し経ってから聞き返した。「あの、夢美とお知り合いなんですか?」 「はい」 「あの、御存じないんですか?」 「えっ、と仰いますと?」 「夢美は2週間前に轢き逃げ事件に遭って、それで・・・」 「えっ!」と僕は思わず叫び、まさかと思って震える声で言った。「あ、あの、でも、僕は2週間前に夢美さんを家に送り届けたんです」 「えっ!」と今度は向こうが驚いて叫んだ。「送り届けたっていつ?」 「あの、夜の10時ごろ・・・」 「10時ごろ?」 「はい」 「夢美は救急隊の方の電話連絡によると、夜の8時15分頃に119番通報があってその30分後に救急車で搬送したものの救急車の中で直ぐに息を引き取ったそうです」  そう聞いた途端、ダダダダーン!ならぬガガガガーン!とベートーヴェン交響曲第5番ハ短調の序奏が脳内に鳴り響いた僕は、と、と、すると、あの夢美は何だったんだ・・・と訳が分からなくなり肌が粟立ち身震いしていると、向こうが思い出したように言った。 「そう言えば、夢美の訃報の知らせがあった後、あれは確かに10時ごろだったわ。雨が上がって玄関の方からすーと冷たい風が入って来るから、あれ?ドアが開いてるのかしらと思って玄関へ行ってみたらドアは閉まってたんですよ。だから、もしや、夢美の魂がドアを擦り抜けて・・・」  そう聞いた瞬間、僕は心底ぞっとして異様に寒気がして総毛立って震撼して、もうその場にはいられなくなって急いで車に向かって乗り込むと、取りつかれたら一大事とばかりに車を急いで発進させ、途中、猛加速して飛ばした。恰も夢美の亡霊を打ち払うように・・・
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