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 帰宅後、僕は読みたくも見たくもなくて重ねた古新聞の上に更に重ね、12日分の古新聞の下敷きになっていた、13日前の古新聞を引っ張り出して自分が犯した轢き逃げ事件の記事を読んでみると、轢き殺された女性の名前が伊藤夢美とあった。  で、矢張りあの時、僕が夢美と思って送ったのは夢美の亡霊だったんだと分かって、それこそ身の毛がよだち、ぞっとした。  何故、僕を取り殺そうとしなかったのだろう?と当然の如く疑問にぶち当たった僕は、勘考した。  そうだ、僕が夢美を轢いた時、ヘッドライトに照らし出された夢美は背を向いていたから僕の顔を見ることは出来よう筈がなかったし、僕の車も恐らく見ることは出来なかっただろう。だから僕を犯人だと認められなかった。従って取り殺す訳がなかった。その代わり仏壇に安置された位牌に依り憑いて法要の時、親に極楽へ行けるよう祈ってもらって成仏するべく僕に頼んで実家に送り届けてもらった訳だ。とすれば、僕にすんなり住所を教えたのも腑に落ちる。僕に好意を持った訳じゃなかったのか・・・   そう思うと僕は失恋したみたいに落胆すると同時にもし犯人が僕と気づいたら取り殺しに来るかもと尋常でなく危惧したので夢美が成仏できるように夢美の家を再度訪ね、夢美のお母さんに夢美の仏壇をお参りさせてもらった後、夢美の墓場を案内してもらって墓参りした。  その際、此の世でも彼の世へ行ってからも夢美に対して隠しごとが出来てしまったと思う僕のことを夢美のお母さんは全く疑うことはなかった。それもその筈だ。犯人が轢き殺した女の母親の前で轢き殺した女の墓参りをするとは努々思わないに違いないもの。だから夢美のお母さんは夢美の亡霊を見たんですねと僕に聞き、僕が怯えるようにええと答えると、あなた、よっぽど夢美と親しかったんですね、夢美の彼氏だったんですね、だから態々夢美の仏壇をお参りして墓参りまでされたんですね、お辛いでしょうと言って泣き崩れてしまった。  それなら確かに辛い。否、それでなくても辛い。何しろ美しい人を轢き殺してしまった。このお母さんにも申し訳ないと僕はもらい泣きしながら二重苦に陥り、罪悪感に苛まれるのだった。 
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