15人が本棚に入れています
本棚に追加
腕はとても白かった。
僕はそれが女のものだと思った。柔らかい曲線や肌のきめの細かさから、そう感じたんだ。
腕は整った爪を畳みに立てていた。引っ掻いていたのはこの腕だった。
どう見ても若い人のものだ。爺ちゃんでも婆ちゃんのものでもない。
誰かお客さんが来てるのだろうか。
でも、この人はいったい何をしているのだろう。
話しかけるでもなし、襖を開けるでもなし、ただ畳みを引っ掻いて存在を主張している。
僕は好奇心から立ち上がって襖に近付いた。
向こうも僕に気が付いたのか、腕はさっと引っ込んでしまう。
相手の正体を掴んでやろうと襖に手をかけ、勢いよく開け放った。
そこには悪戯の犯人がいると予想していた僕は、呆気にとられる。
襖の向こうには隣の部屋なんてなかった。
僕は部屋があると勘違いしていたけど、襖の先は物置だったんだ。
とても人が入れる空間なんてない。
いや、そんなはずはない。
だってさっきまで腕がここから出ていたんだから。
じゃあ、その腕の主は?
最初のコメントを投稿しよう!