腕を愛でる

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 もちろん最初は怖かったよ。  どう考えても人は隠れられないと思い至って、ぞっとした。  でも、爺ちゃんにも婆ちゃんにも話さなかった。  何故かって?  信じてくれないと知ってたからさ。  こんなこと、普通はあるはずないものね。  夜は一人で寝るのが怖かったよ。素肌が外気にさらされてるのが不安で、全身すっぽり布団を被った。  といっても暑くてすぐに顔を出したんだけど。  そんな風に戦々恐々としてたんだけど、あれ以降、腕は現れなかった。  次第にあの日の出来事は僕の見間違いなんじゃないかって気がしてきた。恐怖心も薄れていって、腕のことなんて思い出さなくなった。  それよりも、父さんと母さんが気がかりだった。  爺ちゃんちに来て何日か経ったけど、一度も二人に会えていなかったから。  今どうしているんだろう。  何で会いに来てくれないんだろう。  ひょっとして、僕は捨てられてしまったんだろうかって不安になった。  一人でいると嫌な想像ばかりしてしまうので、爺ちゃんと婆ちゃんに引っ付くようになった。  でも、夜は一人で寝ないといけない。  目をつむって眠ろうとするのだけれど、逆に意識がハッキリしてしまって眠気なんてやってこない。  不安で胸が苦しくなった時、そっと頭を誰かが触った。  驚いて頭を動かすと、腕が布団の中から伸びて僕をなでていた。
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