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布団には僕しかおらず、他に人など入っていない。でも、腕は作り物ではない証拠に、かすかに指を動かしている。
僕は声も出せずにただ腕を凝視した。すると、腕はゆっくりと近寄ってくる。咄嗟に身を引いた僕の頬にそろりと触れた。
固まる僕を気にせずに腕は頬をなで続ける。
その優しい手つきに僕は何だか慰められているように感じて、体の緊張を解いた。
腕は顔から移動して、今度は肩を叩き始めた。
ぽんぽん、と一定のテンポで叩かれて、いつの間にか眠ってしまっていた。
それから、腕は頻繁に姿を見せるようになったんだ。
朝食の席でテーブルの下から出てくることもあれば、昼間に縁側の下から伸びていることもあった。
隠れんぼでもするみたいに、色んな所から現れては僕と遊んでくれた。
腕が出る時間も場所もまちまちだったけど、夜にだけは必ずやって来てくれた。
僕は腕と会うのが楽しみになった。
おかしいって?
うん。ちゃんと自覚してるよ。
だけど仕方ないだろ?
僕の拠り所は彼女しかなかったんだ。
幼い子供でも、それが異様な存在なんだって理解していた。
きっとお化けだと分かっていた。
けれど、腕は何ひとつヒドイことはしなかったし、むしろ僕にとても優しくしてくれた。
彼女がいたお陰で、両親がいない不安や寂しさに耐えることができたんだよ。
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