クルミ ~犯人の隠し事

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捜査20課係に配属されてから、早2ヶ月が過ぎた。 久味勝五 通称クルミは、あのアパート殺人事件以来、これといった仕事をしていなくて少し消化不良になっていた。 まだ、刑事になって間もないのでヤル気に道溢れている。 しかし、この部署には仕事はいつも雑用だらけ 「新田さん、何か仕事ないんですかね? 」 クルミが強面の新田に話しかける。 新田は、ソファーで新聞を読みながらコーヒーを飲んで 「ん? まぁ、本来は、こんな感じだからな~矢野さんが言ってる通り俺みたいなオッサンは、定年までおとなしくするしかないな」 と56の新田が言う。 クルミは 「新田さんもそんなこと思っているのですか?」とため息をつく。 それを見て痺れを切らした一番年上の矢野が 「クルミ! いいから、手を動かせ! 俺なんか老眼で見にくいんだよ」と目を細めて紙を見る。 今日、この部署に来た仕事は、経理課に集められた領収書の整理を頼まれていた。その仕訳をしていた。 名前が可愛らしい工藤桃は、ハッカーでもあるので年輩でもこういう仕事は得意だった。 「まぁ、このような場合データーをスキャンしてやると終わるんだけどね。でも、やったらすぐ終わるから仕事無くなるからね。」ときつめな顔をして言う。 クルミも 「分かりましたよ。」と仕訳を始めた。 新田一人が、コーヒーを飲みながら新聞を恐い顔で読んでいた。 クルミ達が、作業の続きをしていると部署に人が走って来る音した。 部署に現れたのは、肌の白い刑事 その人は、矢野を見つけて 「矢野さん! 」と声を掛ける。 矢野も 「おお! 多田、どうした? 」と不思議そうに聞くと 「木本が……木本ノボルが殴られて重体ですって」 「木本が……」と矢野もすぐ立ちあがり部署から出ていった。 昼に、矢野が戻って来た。 矢野が出ていった後に、木本について他の二人に聞いたが教えてくれなかった。 矢野が帰ってくると、一番首を長く待っていた課長の棚田は 「矢野さん! どこへ行っていたのですか? 仕事中ですよ。面倒とかやめて下さいね」と眼鏡を上にあげて注意をする。 課長の棚田は、いつかする自分の出世ばかり気にしていて、部下の面倒が一番嫌いだった。 矢野は課長に 「すみません」と元気なく謝った。 矢野が自分のデスクに来ると、クルミは空気を読まずに 「矢野さん、どこへ行っていたのですか? 木本ノボルって誰ですか? 」と聞くと 矢野が少し怒った顔をしたので少しビビったが、何も言わなかった。 矢野が木本について口を開いたのは、課長棚田が部署から、出て行った後だった。 「木本ノボルは、窃盗の罪で服役していた。」と矢野が口を開いた。 「木本は10代から、盗みで生計をたてて来た。それで、25歳の時に、逮捕された。でも、証拠が見つからなくて苦労して落とした事件だ。その時に、俺が取り調べをして逮捕に至ったんだ。何とか吐かしたそれが俺の取り調べの原点ともいえるんだ。それから、十数年刑務所から出てきて2年真面目にやってきた。もう、やらないと……だが、昨夜、同じ会社の人の家に浸入して、鉢合わせをしてしまい、バットで殴られて重体だ!何も変わってないのかな……」と呟いた。 クルミは 「そうでしたか……長年刑事やるとそんなことも起きるんですね。でも、まだ、目が覚めてないんだから本当の事わからないですよ」と慰めるが 「何言ってるだよ。状況証拠だよ。あとは、アイツの生きざまだ! 誰に聞いても犯人だと思うよ」と領収書を見ながら言う。 すると、いつのまにか居た棚田が 「つまり、そいつは、何も反省してないって事だよ。何も変わってないただの犯罪者だ。犯罪者は、みな同じだよ」と言って自分のデスクに置いてある資料を手にもってまた、出て行った。 クルミは 「矢野さん、課長はあんなこと言ってますが俺は信じたい……その木本を……だって、事件と起こさず2年も真面目に働いていて、急に元に戻りますか? 生活も荒れてた訳でもないし、だから、何か別の理由でもあったのでは? と俺は思いました。だから、俺は木本を信じる」 「お前……そうか、でもなそう簡単に信じる訳にもいかない」と矢野が言う。 すると、新田が口を出して 「クルミ! いいことだ。矢野さん、このさえ調べれば! どうせ、上は窃盗で処理するでしょ? 正当防衛とか、何も調べないで、検察に引き渡すと思うからね」とクルミの肩を叩いて言う。 だが、矢野は 「俺は、いいや」と断る。 クルミは、あの話を聞いた後経理部の仕事を不満な顔をしながらする。 すると、新田が 「おい、クルミどうした? 不満な顔をして」と小声で聞く 「いや、何かな」と言うと 「あ、そうだ! 」と新田が大きな声で言うと 「俺達大事な用があったんだ! 手伝えクルミ」と分かりやすい嘘をついて、新田はくしゃくしゃな顔をしてクルミを外へ連れ出した。 それを見た工藤桃は 「まったく」と言う。 矢野は黙っていた。 クルミは新田の後ろを黙ってついていく。 途中で痺れを切らし 「新田さんどこへ行くんですか」と言ったときには、もう、ある一軒家に到着していた。 「ここって」と言葉にすると 「そうだ! 木本ノボルが窃盗しようとした同僚の家だ。調べるんだろ? 午前中に所轄に聞いてきた。捜査課の特権だろ」とくしゃくしゃな顔で言う。 クルミは 「いんですか?勝手に捜査」 「お前、事件解決したくないのか? したいだろ? だから、まずは現場に来ないとな!さぁ、調べるぞ」と張り切って中へ入ろうとする。 「新田さん……」と名前が出る。 その一軒家の被害にありそうだった山下さんの家には、警察官など警備などはしていなかった。 つまり、事件は終息に向かっていた。 もう少しで、木本をバットで殴った山下一は、釈放されるとなっていた。 二人が玄関前に行き、開けようとしたとき 「どちらさんで? 」と声を掛けられた。 声の方向には、白髪のじいさんが立っていた。 「どなたですか? 」と又しても聞いてくる。 新田は、警察手帳を出して 「警察です。木本ノボルについて調べてまして」 「木本……ノボル? はて?どちらの」とちんぷんかんぷんに聞く 「ところであなたは? 」と新田が逆に聞くと 「私は、ここの者です。山下光春です。」と山下一の父親だった。 「いや、お宅に入った窃盗犯について調べてまして、山下一さんが、犯人をバットで殴ったでしょ?」と新田が聞く 「あ!そうだよ!何で家の息子が、早く息子を戻してください。悪いのは犯人ですよ。私の大事な物を盗んで」と言って一つのペンダントを見せた。 クルミは思わず 「これを盗んだんですか? 」 「おい! 」と新田に言われて黙る。 山下光春は 「私の大事な物です。これをアイツが盗んでそれで、玄関で鉢合わせになって、息子が近くにあったバットで殴ったんだよ。」とうつむいた。 クルミと新田は、山下家からのかえり道 「何か変じゃないですか? 」とクルミが歩きながら、新田に質問する。 「そうだな! 親父さん何か隠してる? それか、本音か、曖昧だしな。いいか!クルミ!変だぞと思った時点で納得するまで調べないといけないぞ! しゃないと……俺みたいに……」と最後は聞こえなかったが、その後にくしゃくしゃな顔を見せた。 二人が、部署に着いたのは仕事が終わりそうな時間だった。 課長の棚田が自分のデスク前で、仁王立ちで待っていた。 「新田さん、新人連れてどこに行ってたのですか? また、何か企んでいるんですか? 」とイケメンなのにキツい顔で聞くと 「いえ、課長、何でも……ないですよ。いや、ちょっと気になって鴨の親子が……な?クルミ!」と新田がクルミにふる。 「そ、そうですよ。でも、結局この時期にはいませんからね。領収書整理してたときに、あのとき使ったのを見て思い出して」と無理矢理作る。 課長は 「そうですか。でも、何かあってもかばいきれませんよ」と言って眼鏡をあげて出て行った。 新田は、棚田が出ていくのを確認して、まだ、帰宅していなかった矢野に 「矢野さん! やっぱり何かおかしいですよ。木本の事件!何か隠してるよ。山下親子が、今日行って親父に確認をとったらちんぷんかんぷんだったんですよ」と言うと。 矢野は 「そうか……やっぱり、行ってきたか。でも、俺には関係ないからな」と言って帰る支度を始めて クルミは 「矢野さん」と声を掛けるが矢野は無視して帰った。 二人は、顔を見合わせた。 新田とクルミは、あの後気になりまた、木本ノボルが窃盗を犯した山下の家へ向かう。 すると、そこには、何と矢野の姿もあった。 新田は 「流石!刑事だな!気になったんだろうな」と言って 矢野に近づき 「矢野さん」と声を掛けると矢野は驚いていた。 「お前らどうして? 」と驚いた顔と合う言葉を発した。 クルミは、 「どうしても、諦めきれなくて来てみたら矢野さん居たんで」と笑顔で言う。 隣の新田もくしゃくしゃな顔をしていた。 「勘違いするな。俺は、お前らとは違う。俺は、なアイツを信用してるから調べるんだ」と言うと 「本当にアイツがこの家で……こんな周りから見える所を選ぶとはおかしいな。アイツは、昔から小金持ちを狙うやつだ。しかも、玄関から帰ったりもしない。中に入ったら必ず逃げ場所も確保する。おかしいな」と首をかしげた。 新田が 「やはりそうですよね。俺も思いました。会社へ行って見ませんか? 木本と山下が働いていた所へ」と言う。 木本ノボルが働いていたネジ工場は、山下の親戚が経営していた。山下の父親光春も昔仕事をしていた場所だった。 山下ネジ工場には、夜遅かったが一人の従業員が残っていた。 クルミと新田は、外で待つように言われ矢野1人で中へ入っていく。 「すいません」と矢野は警察手帳をその従業員に見せる。 矢野が、話を聞いてると従業員が「また」と一言言う。 その先に1人の老人が来ていた。 「山下さん。困りますよ!勝手に来て、息子さん早く来てくれないかな」と言う。 その老人は山下光春で山下の親父だった。 「俺の金、金」と中へ入っていく。 従業員は、止めに入った。 見ていた矢野は 「いつも来るんですか? 」 「そうなんですよ。勝手に来て中へ入ります。昔職場だからって……」とあきれていた。 「介護も雇ってないですしね。困りますよ」と言う。 矢野は色々、話を聞けて、外に出てきた。 「帰るぞ」と二人に言った。 クルミと新田は、矢野が次の日おこした行動に驚かされた。 勿論、課長や工藤桃も 矢野は、木本ノボルをバットで殴った山下一の取り調べをさせてくれと、担当者にお願いしていた。 勿論、断られていた。 警察は、山下一を正当防衛として保釈させようと、あくまでも、被害者として、木本ノボルを捕まえるためにやろうとしていた。 矢野は、ダメもとで課長の棚田に 「課長!お願いします。この老人を助けると思って課長の力でなんとかしてくれませんか? 」とお願いしていた。 「駄目に決まってるでしょ。もうすぐ矢野さんは定年なんですからおとなしくしててくれませんか」と冷たく言うと 「刑事だから……刑事は警察は市民を守りただそれだけです」と矢野が言うと それを見たクルミも 「課長!お願いします」と頭を下げた。 新田も 「課長」と恐い顔で言う。 課長の棚田はその場を無言で去った。 その後は、20課係の部署の空気はどんよりしていた。 その時だった。 「矢野さん。今日だけですよ。山下に話を聞くのは」と課長の棚田が帰ってきて言う。 「山下が話さなかったらおわりですからね。はぁー一体誰の影響か……」と言うと 「ありがとうございます」と矢野は薄い頭を下げた。 矢野は、山下に5分だけと言うことで話しを聞ける事になった。 矢野は、山下の向かえ側に、腰を降ろした。 「山下さん、少し話しを聞かせてもらいますよ」と始まった。 「山下さん。何で、木本ノボルがペンダントを盗んだと思いますか?」と聞くと 山下は 「さあ、自分が玄関に行ったときには、あの人がいたので慌てて、近くにあったバットで頭を殴ったよ。しかも、あの人が、昔窃盗で捕まってたのも知ってたし、あとは、父のペンダントを持っていたからね。」と説明した。 「そうですか……あ、お父様はいつもあんな感じですか?会社へ行ったりするのですか?何で、介護の人を雇わないんですか?」と聞く。 少し、間をとって 「父が他人を嫌がるので、しかも、金もかかりますしね」 「では、お父様は会社に行くと、金庫に向かう見たいですよ。お父様は、昔、あそこで経理もやっていたのでは? なので、その名残りが忘れられないとか、事件前日お父様は、会社へ行ったんでないですか?お金を取ろうとした、その時に、ペンダントを落として木本ノボルがそれを家に持ってきた。ばれたと思い窃盗の犯人にしたてあげて正当防衛でバットで頭を殴った。」と聞くと見ていた他の刑事達も驚いていた。 「もう、鑑識が動くその前に認めたらどうだ? 」と畳み掛ける。 「そうだよ。その通り、親父に盗みを働かせていた。で、あの日、親父がペンダントを落としてきて、次の日に木本が届けに来て、「もう、やめさせろ」と言った。でも、この犯罪者に何で言われないといけないと思って殴ってしまった。」と自供を始めた。 木本ノボルも無事目を覚ました。 勿論、事件の手柄は持っていかれた。 簡単な事件を警察の怠惰で一人を冤罪に巻き込む所だった。 クルミは矢野に向かって 「良かったっすね」と言うと 新田も 「そうだな!」と言う。 矢野が 「ありがとうよ。」と礼を言った。 また、一人刑事の目にされた。
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