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 大志の手を繋ぎながらエレベーターから降りたところで、前方にさやかとまりえの姿が見えた。黙って近付くと、さやかが気付いて振り返り、気まずそうに目を逸らす。  有里は構わず声をかけた。 「久しぶり。うち、今から公園に行くの」 「私たちも公園に行こうと思っていて」  二組の親子は並んで歩き始める。大志とまりえは会えて嬉しいのか、共にニコニコと笑っている。 「連絡をくれないから、忙しいのかと思っていた」  有里がぽつりと呟くと、さやかは目を丸くして首を振った。 「全然、忙しくなかったよ」  そして申し訳なさそうな顔で続ける。 「こっちから連絡して迷惑だったらいけないから」  予想通りの答えだったが、有里は小さく唾を飲み込む。ちゃんと、言わなきゃ。 「迷惑なんて思わないよ。でももし仮に私がそう思うとしても、それでも連絡がほしかった」  訝しそうにこちらを見るさやかの視線を頬に感じた。 「寂しかったよ。だって、いつも連絡するのは私からばかりじゃない」  さやかの視線は地面に落ちる。 「さやちゃんが、私の初めてのママ友だからさ。さやちゃんからの言葉も欲しかったの」  自分の本心をまともにさらけ出す気恥ずかしさで、有里の鼓動は早まっていた。少しでもそれを落ち着けたくて、深呼吸をする。  さやかは下を向いたまま、有里の言葉を噛みしめるように小刻みに何度も頷いていた。  公園に着くと、いつになくたくさんの親子がいた。派手グループ、地味グループ、全員集合だ。  いつも通り、子供達は炎天下で遊び回り、母親たちは木陰に小さく身を寄せ合っている。派手グループの中に頭一つ背が高い美佐子を見つけた。  大志は有里と繋いでいた手を離し、滑り台の方に向かっていった。大志を追うようにまりえも走り出す。大志が滑り台を目指したのはそこにいる竜星に気付いたからだろうか。それとも偶然だろうか。まあ、そんなことはどちらでも良い。  今日も陽射しが強く、日陰が狭い。強烈な紫外線に晒されながら子供達を見守るのは御免なので、どこかの日陰を確保しなくては。  さっきまで大志と繋いでいた手で、有里はさやかの手を握った。大志の手を握るときのように、優しく、強く。  さやかは驚いた顔をする。 「もっと、信じて。私のことも、あの人たちのことも」  有里は自分がどこかで聞いた台詞をいたずらっぽくさやかに囁き、そのままさやかの手を引いて美佐子たちの方に向かった。  グループの仲間と楽しそうに会話をしていた美佐子は、近付いてきた有里に気付いて笑顔で手を振った。有里も負けないくらいの笑顔で大きく手を振り返す。がっちり閉まってほどけないものだと思っていた美佐子たちの作る輪が、緩まって少し開くのが見えた。  日はどんどん高く、蝉の声がひときわ強く鳴り響く。美佐子たちのいる日陰のベンチに向かって、有里とさやかは並んで歩いた。 (了)
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