発明品

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発明品

「でね、高乃ってばそのセールのこと教えてくれなくて、結局一人で行ってるの」 今日学校で会ったことを愚痴っているのは今年高校に上がったばかりの美里。 彼女は学校から帰ってくるなり、制服を着替えもせず祖父の悠太郎の座敷部屋にやってきた。 悠太郎はいつもの白衣姿のまま座敷部屋に隣接する研究室でそれを聞いている。 「まあ友達といっても、なんでも教えてくれるわけではないじゃろ」 「でも、それで買ったピアスを自慢するんだよ!」 身を乗り出して言った美里はそのまま座敷机に突っ伏した。 「穴を開ける勇気もないくせに……」 ちなみに美里もピアスの穴は開けていない。 針を使って開けると聞いた瞬間に耳を抑え目を閉じて、完全拒絶の体勢になったほど、美里は痛い話が嫌いだった。 ならばピアスを買っても宝の持ち腐れなのだが、そこは友達と同じものを持ちたいと言う心理なのだろうか。 「ならば、これを使ってみるかの?」 悠太郎は棚の奥から手のひらに乗る程度の小さなボール状の装置を探し出して美里に見せた。 「それは何?」 「それは遠隔意志力抑制装置といってな」 「なんか難しそう」 「なに、仕組みは簡単じゃよ。この装置は思考や判断を司る前頭葉の特定部位の機能を鈍らせる力場をそれを中心に発生させるのじゃ」 「中のことはいいよ、使うとどうなるの?」 「力場の中にいる人間は嘘をついたり隠し事ができなくなる」 「へー、どうやって使うの?」 そんな美里を悠太郎は目を細めて見つめる。 今でこそ町の発明家に収まっているが、かつてはマッドサイエンティストを名乗っていた悠太郎は、今でも心の奥底に自らの発明品が世界の秩序をいかに乱し混乱させ破壊するのかを見てみたいという強い願望を秘めていた。 「使い方は簡単じゃよ。ボタンを押し込めば起動、もう一度押せば停止じゃ。そしてボタンの周りのダイヤルは効果範囲の設定で、時計回りで広く、逆で狭くなるのじゃ」 「へー、どれどれ」 美里は悠太郎から装置を受け取ると早速スイッチを入れて悠太郎に質問する。 「おじいちゃんはなんのためにこれを作ったの?」 悠太郎はその質問に淀みなく答える。 「犯罪者から自供を引き出すためじゃな。罪は詳らかにされねばならんし、自供となれば犯人自身の減刑にもつながる」 「ふーん、そうなんだ」 「美里はそれをどう使うね?」 「高乃がどうして私を誘わなかったのか、吐かせてやるの!」 装置の影響があるにしても、美里は実に素直な良い子に育ってくれている。サンプルケースとしては申し分ないだろう。 「そうか、頑張るんじゃぞ。あと使う時まではスイッチは切っておきなさい」 「うん、わかった」 装置のスイッチに切ってカバンに納めた美里が自分の部屋に戻っていったのを確認すると、悠太郎は首の後ろに着けていた装置を取り外した。 それはあの装置の効果を無効化させるフィールドの発生装置だった。 観測者たる悠太郎は当然あの装置に対する対策も怠ってはいない。 正義のためなどとはつゆとも思っていないが、装置の効果を証明するためには普段通りの優しくて誠実な祖父を演じて見せる必要があるのだ。 「さて、美里はあれを使ってどのような混沌を作り出すのじゃろうな」 悠太郎は座敷の片隅でいつも微笑んでくれている、今は亡き妻、恭子の写真に向かってつぶやいた。
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