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「どうした?桧垣さん。疲れたのか?」
黙って車窓を見つめる私に社長が話し掛けて来た。
「いえ、別に…大丈夫です」
「でも・・・やっぱり声が掠れてる…風邪でも引いたんじゃないのか?桧垣さん」
彼は機内でも掠れた私の声を気にしていた。
私は正直に答えた。
「風邪を引いたかもしれません…でも、大丈夫です」
私は秘書なのに。
社長にカラダを気遣われてどうする?
完璧な秘書になるには程遠かった。
「東京と北海道では気候が違う…これ以上悪くならないように気を付けろよ。桧垣さん」
「はい」
私は笑顔を添え、返した。
秘書の私に寝込まれては困る。唯それだけなのに。
私は単細胞だから彼に優しく気遣われ、嬉しくて堪らなかった。
一人で含み笑いを浮かべる私を不審に思ったのか社長の目が訝し気になった。
「今度は一人で笑ってるけど、どうしたの?」
「何もないです…」
「桧垣さんって少し変だな…」
「えっ?あ…」
今度は変だと言われ、落ち込んだ。
「君の顔を見てると面白いよ。一人で何だか百面相してるんだもん」
社長はクスクス笑った。
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