隠れた優しさ

3/7
前へ
/168ページ
次へ
私が彼の秘書に就いて、二ヵ月が過ぎた。 「社長秘書の仕事には慣れた?」 用事があって秘書課に行けば、秘書課のチーフ・井上さんが私に話しかけて来た。四十三歳の既婚者で中学生になる一人息子の父親。 息子は優秀らしく、名門の私立中学に通っているらしい。 秘書歴十五年のベテラン秘書で今は会長秘書を務めている。 「あ、はい…」 「社長も君には優しいようだね…」 「そうですか?」 「見てたら分かる…やっぱり女性秘書を就けた会長の作戦が見事に成功した…社長も桧垣さんのように可愛くて若い女性には冷たくできないんだな」 「でも・・・冷たい時は冷たいですよ…」 「どういう時?」 「それは…私が失敗した時…」 「それは仕方がないよ」 「そうですね…」 と私も相槌を打った。
/168ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2317人が本棚に入れています
本棚に追加