第一章

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 学校が休校になってから九日、川村の葬儀から四日後に授業が再開された。教室の中、学校の中、どこもかしこも警察による聴取の話題で持ちきりでなにを聞かれたか、なにを言われたか、学校中で沢山の憶測が飛び交っていた。  三上が落ちた時同じ屋上に人影はなかったか、三上が落ちた時に教室の中で見かけなかった人物はいなかったか、三上はなにか悩んではいなかったか、三上と仲が良かったのは誰か、警察が聴取で出した大体の内容はそんなものだったらしい。やはり三上は事故死ではなかった、そういうことだろう。  その話題の所為でか、岡崎は今日に限って異様な程の人数に呼び止められ、その都度新情報だとなんの根拠もない生徒間での噂話に付き合わされていた。  新しく仕入れた情報を我先に広げたいが為か、興味のなさそうな岡崎を捕まえては自慢げに語りだし、すぐにまた次の獲物を探しに去って行くのだ。登校と同時に続くそれは授業の合間をもって延々と続き、次に来る長い昼休みにとてつもない不安を覚えた。  人の死で浮足立つその様子に、岡崎は言い知れぬ感覚を覚えた。怒りでも苛立ちでもない、けれどこれを言葉で表現するには他に適切なものが見当たらない。  黙っていられないような、延々と自重することなく続く「憶測合い」に、遂に耐えきれなくなった岡崎は四時間目終業の鐘と同時に教室を飛び出してしまった。背後から迫る理性を振り切り、次第に足は早まり、走り出してまで。  絡み付くようなそれからひたすらに走る岡崎が職員室に差し掛かった時、見慣れぬ男子生徒が教師に叱られているのを目撃した。それを遠巻きに見る生徒も点在し、そこだけがひらけた空間となっている。  岡崎が構わずその横を突っ切ると、叱られている生徒の姿をはっきりと見ることが出来たがなにか記憶に引っ掛かる。見覚えのある生徒だと頭の片隅でそう感じたが、今はそれ所ではない。すぐに考えることを放棄して駆け抜けた。  岡崎がその場を去り、階段を下りる頃、漸く教師から解放された生徒は、叱られた原因の白髪を揺らし、岡崎が駆け下りて行った階段をじっと見つめていた。
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