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「やだなぁ、相沢さん。やっとネット販売のやり方覚えたばっかりっすよ。まだ近くの喫茶店とか道の駅とかに置いてもらってるだけっす」
店の奥にある焙煎機を見やり、優吾は顔の前で右手をヒラヒラさせた。
喫茶わたゆきのコーヒは、全て自家焙煎だ。ロースターである父親が丹精込めて焙煎した豆は、雑味がなくすっきりとした味わいだ。
道の駅や高速道路のパーキングエリアに置かせてもらったところ、口コミやSNSで話題となり、問い合わせも増えたため、この度、ネット販売に踏み切ったのだ。
パソコンに不慣れな父親は、商工会の職員から手取り足取り指導を受けながら、毎日悪戦苦闘している。
「優吾がやってやりゃあいいだろ?」
あっという間にスパゲッティを平らげた須藤が、紙ナプキンを口に当てて上目遣いに優吾を見る。
「ダメっすよ。甘やかしたら、本人のためになりませんから」
あれは親父の仕事っす、と優吾は喫茶店の裏にある自宅の方を親指で差した。
「相変わらず厳しいやつだな」
須藤が眉間に皺を寄せる。優吾は昔から、少し頑固なところがあった。
「でしょう? いちいち細かいんですよ」
「はぁ? お前が大雑把すぎんだよ」
「どこがよ? 私はいつも臨機応変に……」
「はいはい、痴話喧嘩はおうちでやってもらうとして」
相沢が割って入る。
「痴話喧嘩って……!」
反論する綾音をまあまあと宥め、「それにしても、よく道具持ってたな」と相沢が唐突に話を切り出した。
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