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 須藤は、綾音と優吾の高校時代の担任だ。二~三年にかけてはクラス替えがないため、二人は卒業までの二年間を須藤の世話になった。 「やっぱこの味だよな。さすが優吾。親父さんの味そっくりだ」  ナポリタンを一口頬張り、須藤は満足そうに頷く。 「ありがとうございます」  はにかみながら、優吾が頭を下げた。  二人が卒業して間もなく、須藤は県境の高校へ赴任した。それからいくつかの地方を回り、今年念願の古巣に戻って来たのだ。 「ご両親は? 元気か?」 「はい。今週末に一組予約が入ってるので、今日は朝から客室の準備やら買い出しやらで大忙しっす」  優吾の両親は、息子に喫茶店を任せたあと、田舎の農家特有の部屋数の多さを生かし、自宅の一階で民泊を始めた。母親が作る無農薬野菜を使った田舎料理がウケて、県外からのリピーターも増えてきた。  野菜の収穫体験なども行っており、地域の幼稚園や小学校からの依頼も多い。 「コーヒー豆でもだいぶ儲けてるって、うちの息子から聞いてっけど?」  喫茶わたゆき特製の『わたゆきブレンド』をズズっと音をさせて啜ると、相沢は日に焼けて黒光りする顔を歪めて笑った。
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