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別に嫌いじゃなくても別れることは、あると思う。現実に、彼と私が今その状態だ。
「婚約破棄は当たり前でしょう。こっちは慰謝料なんか請求できる立場でもありませんから、今日からあなたと私は他人になる、それで終わりよ」
言葉だけ見ればずいぶん辛辣だけど、私の言い方はずいぶん落ち着いたものだったし、むしろ優しかったと思う。何なら、自分に対して、慰めの気持ちもあったから。
「どうして俺たちが別れなきゃいけないんだよ!」
彼の方も言葉だけ取れば、彼女に別れないでほしいとすがっているようにとれなくもない。実際、彼は私を同じソファの隣に座らせ、両手で私の右手をつかんで離さない。だけど、彼は私にすがりつくなんてとんでもない。今や、ネットの人気投票で1位になった新進気鋭のIT会社社長なのだ。
「宰(つかさ)さん。うちは、事業に失敗して多額の借金を背負っちゃったのよ?家屋敷は差し押さえられて、今日から住む場所もないのよ。そんな私とああなたが結婚するメリットなんて何もないでしょ」
ほんとに人生何があるかわかったもんじゃないわー。うちの父は小さな広告代理店を経営していて、飲食店や冠婚葬祭事業なんかやっているところを主に顧客にしている手堅い会社だった。彼は5年前にプログラマーとして主にお客さんのサイトの作成などを担当する要員としてうちに入社してきたのだ。私は普通に父のコネで結婚式場の事務として働いていたから、父の仕事の内容は分からないけれど数年前まで結構もうかっていて、彼がたった1年で独立して会社を立ち上げるといった時も、父は快く彼に出資してあげたのだ。背が高いのはいいけれど、肩が盛り上がっていて、いつもぶすっと不愛想で、低い声も威圧的で社会的ステータスの色眼鏡がなければゴリラにした見えない彼が、経営者としてやっていけるのかちょっとしたお節介で時折顔を見に差し入れしたりしているうちにいつの間にか恋人になってしまったけれど、こんな風に彼が成功することなんて婚約した1年前ですらちっとも想像していなかった。美女と野獣カップルなんて言われていた立場は逆転し、今や彼は立ち上げたネット販売サイトが大当たりし、年間数百億の売り上げを生み出しており、イケメン社長とすら言われているのだ。彼のことは本当に好きだけれど、何の取り柄もない私なんかが彼の奥さんになって良いのか、ずっと不安だったから、別れは悲しいけれど、ちょっぴり肩の荷が下りた気もしている。
結局、彼との別れは運命づけられたものだったのだ。
「君のところの借金は、僕が何とかするって言ってるじゃないか。たかが1000万円の借金でどうして僕らが別れなければいけないんだよ」
声の調子からして彼は今泣きそうになっているのかもしれないけれど、顔立ちまでいかついから、正直はた目からは睨まれているようにしか見えないだろう。私が小さいから余計に、ささいなことで小動物を脅かしている大型動物の図になってしまう。
「たかが1000万円なんて言わないで。私たちが実際に苦しんでいるお金なのよ。家を売っても、まだ数百万円借金は残るの。私は今や無職だし、とても結婚なんて考えていられないのよ」
そうなのだ。父の会社はなんとか自己破産は免れたものの、退社する社員たちの給料など払ったりしなければならず、借金のすべては返せなかった。それもこれも父がオリンピック需要を見越して、慣れない分野の仕事に手を出して安易にお金を借りてしまったせいなのだ。ご承知の通り、今や東京オリンピックは延期され、父が受けていた仕事は無期延期どころかご破算となった。おまけに追い打ちをかけるようにして、私が働いていた結婚式場を経営していた親会社がコロナによる冠婚葬祭需要の激減により、経営破綻してしまった。もちろん私が働いていた式場も先月を持って閉鎖された。一時は別会社に買い取ってもらう案もあったらしいけれど、今はコロナ不況が吹き荒れている。そんなにうまくはいかなくて、私も晴れて、無職の身だ。
いやあ、30歳を超えて婚約者も職も失うのはつらいけれど、こればっかりはどうしようもない。娘を溺愛する父は、「彼と別れてくる」と今朝宣言したら、あんなにいつまでも嫁に行かなくて良いと日頃ごねていたくせに、ショックで寝込んじゃったのよね。まあ、なんと言っても私よりも彼を買っていたのは父だったから、娘の婚約破棄が本人よりもこたえてしまったのは分かる気がする。ただでさえ、会社をつぶしてショックを受けているしね。でも、まだ借金が返せる見込みがある額なのは、父がこれまで手堅く仕事をしてきたおかげだと思うことにしているのだ。彼との結婚だって、人生のうち一時の夢を見せてもらったと思えば良い。
宰さんのお昼休憩を見計らって行ったのに、結局3時間近くも彼の社長室で押し問答が続いて仕事の邪魔をしてしまった。部屋から出るのが気まずかったけれど、幾人か顔見知りの社員のみなさんはみんな素知らぬ顔でこれまで通りに接してくれたのが、ありがたい。
特に予定もない私は、その後はすぐにホテルに行く気にもなれず、電車で気ままに旅に出た。今のコロナ禍の風潮だとか、借金を背負っている状況を考えたらお金を使って電車に乗っている場合なんかじゃなかったけれど、どうしてもすぐに不動産屋に行って、これから住む場所を探す気にはなれなかった。
つらいときや悲しい時に、海を見たくなるって本当だなあ。
あいにくの小雨日和で、海は荒れて灰色がかっていたけれど、大事な時はいつも雨が降る雨女だから、かえって馴染みのある風景のように感じた。いや、山育ちなんだけどね。
天国から地獄とはまさにこのことだ。今の世の中毎月倒産する会社なんて月に数百もあるんだから、自分だけが特別不幸とは思わないけれど、泣きたくなる気持ちはどうしようもない。彼との別れの悲しみよりも、あんまり身体が丈夫でない私がこれから仕事を探せるのか、不安が先立つのは薄情なのかな。でも、これからどうしようという不安で消え入りたい気持ちだった。彼にすがって家庭に入ったらこういう不安から逃げるための身勝手になる気がして嫌だったんだよね。
夕暮れ時になっても、まだ、海を眺めていたい気持ちだったけれど、携帯の着信が気になって特に観光も何もしないまま夜更け前には、宿泊するホテルについた。ホテルといってもマンスリーマンションで母と父と3人で住める部屋でとりあえず、1ヶ月借りている。失業手当と退職金があるから、その間はなんとかなるはずだ。これまで、家にお金を入れたこともない自分がいきなり家計を預かる立場になると一気に緊張をする。30歳もすぎて笑われるかもしれないけれど、これまでお金の心配なんてほとんどしたこともない環境だったのだ。父が悪質な金融業者からお金を借りていなかったことが救いだ。
とりあえず帰ったら、何も考えずに寝てしまいたいと思っていたが、ホテルのロビーには、彼がいた。
宰さんは地獄の使者のような顔で待ち構えていて、あれ?私、借金取りに追われていたかしらと錯覚しそうになったくらいだった。本当に彼が女性人気の独身社長と呼ばれているのが、世界の七不思議に思えてしょうがない。
「裕美さん、話があるんだ」
世間に少し顔が知られている彼と人前で押し問答を繰り返したくなくて、私は彼に誘われるまま、ホテルの最上階のレストランの個室に入った。コロナ対策で特に他の客との接触が少ないようになっているのが、この時ばかりはありがたい。
「君の借金の返済計画を立てて来たんだ」
彼が見せたのは、私が予想した通りのものだった。私に対する気持ちはともかく父にも義理がある彼なら、それくらいのことは言い出すと思っていたので、今日までずっと父の会社の状況を隠してきたのだ。
「まずは、やっぱり僕に立て替えさせてほしいんだ。それなら余計な利子も払わなくて済む。30年でどうかな。できれば、僕の会社で働いて手伝ってほしいけれど、裕美さんが別の働き口を探したいというのなら反対しないよ」
ずいぶんと気の長い返済計画である。私は、彼のやたらと体裁の凝った計画書をおざなりに見ながら、ため息をついた。フルコースを間に挟んでこんな話をしたくないし、今は金のかかった豪華な料理も見たくなかったし、食欲もない。
「定年までに返せばいいのね。ずいぶん、寛大なお考えだこと。だけど、あなたに立て替えてもらうかどうかなんて私の一存で決められないわ」
「お父さんになら許可をもらっているよ。君が帰ってくるまで、ずっと話していたんだ。今日はどこに行っていたの?職安?」
非常に現実的な彼の質問に、まさか海に行ってぼうっとしてましたと柄でもないことをしていたとも答えられず、私は押し黙った。プライドの高い父が彼の提案に乗ったのは意外だった。それくらいなら、彼にお金を借りて会社を立て直せばよかったと思うのだけど、父も60歳を超えているし、そろそろ会社も潮時だと思ったのかもしれない。
「父がそうすると言うのなら、返済計画云々はともかくとして、あなたに立て替えてもらうことに対して私がどうこう言えることではないわ。だけど、わたしとは、別れて」
「僕と結婚するのが嫌なのか」
「浮気が不安なのよ。だから別れましょう」
私は進まない食事の手を止めて、彼をまっすぐに見た。彼には、浮気の前科がある。いや、正確には世間では浮気と呼ばないのかもしれない。まだ、付き合うかどうかわからない微妙な時期にデートまがいの外出を彼と二人でした。父の誕生日プレゼントを選ぶという名目だったけれど、二人とも初めてのデートの認識を持っていたと思う。だけどその直後に、彼と若手女優との交際の記事がすっぱ抜かれた。いわゆる遊び、1度だけの関係というやつらしい。1年ちょっと前のことで彼がちょうどメディアから一番注目を受けていた時期だったから、ひとつスクープを取ってやろうと週刊誌に狙われていたのだと思う。すでに招待状を出していたら、今回の婚約破棄も少し話題になったかもしれないが、コロナで結婚式が延期になり招待状を出さずじまいでいたのは幸いだった。あの時、私は迷ったけれど、彼と結婚を前提として付き合うという選択をした。正直、遊びで女性と関係を持つという彼の感覚は理解しがたいし、彼がまじめに見えていただけに裏切りの衝撃も大きかった。忘れようとこころがけてはきたが、彼にこれだけ負い目を持つ身となってしまえば、彼の浮気を今後追及できなくなりそうで怖い。それでなくとも、彼は3つも私より年下で、社会的地位もある。私はもう若くはないし、持病のため子供ができにくい体質かもしれない。彼が将来子どもが欲しくなって若い女性に目がいくのは必然のことのようにも思える。独身でいる寂しさより、結婚によって起こるかもしれない裏切りの方が怖い。現実が厳しくても、ただお金のために心を売りたくはなかった。
「猫・・・」
「猫?」
過去の話を蒸し返されて言葉に迷ったのか、長い沈黙が流れた。食事も一段落して、食後のコーヒーを飲んでさあ帰りましょうという時になって、やっと彼は再び口を開いた。
「結婚したら、裕美さんと一緒に猫を飼いたいと思っていたんだ。保護猫でもいいし、ペットショップ買ってくるのでもいい。本当はマンションも引っ越して、猫のために家を買って住みたいと思ってた」
「・・・残念ね。私は、猫なんて飼いたくないのよ。その点、やっぱり気が合わなかったわね」
正直、結婚式の段階から彼とは少しすれ違っていた。コロナで祝宴の類がやりにくくなったのをこれ幸いに、私は結婚式をキャンセルしようとした。まずは入籍だけ済ませればいいし、彼の立場は分かるけれど、この状況なら世間へのお披露目もいらないだろうと思ったのだ。だけど、彼はどうしても結婚式をやると言って聞かなかった。式の内容も勝手に決めて、ドレスの試着の予定すら勝手に入れてしまった。私が働いている会社での式の予定だったが、会社がつぶれてしまったので、式も白紙だ。正直、ブライダル業界に勤めるなら、結婚式はしなければいけなかったのだと思う。だけど、どうしても私には今必要なことには思えなかったのだ。私がずるずると式を延期しなくても、きっと会社はつぶれてた、そうは思うけれど、社員ならもっと他にできることがあったのではないかと自分を責める気持ちもある。きっと仕事に向いていなかったのだ、そうは思うけれど、まったく違う業界を目指してこれから就職活動をしていくことを考えると憂鬱だった。
私の思考が少しそれて物思いに耽っているのに、気づいたのかどうなのか、彼はすぐには言葉を続けなかった。元々思っていることをすぐに口に出してしまう私とは違って、彼は慎重に言葉を選ぶタイプだ。なるべく人を傷つけないように慎重すぎるくらい言葉を選ぶ優しい人。だけど、浮気はできるし、仕事は攻めの姿勢で他社との競争を楽しめるタイプなのだから、矛盾していると思う。これまでペットを飼う話なんてしたことなかったから、彼は仕事に夢中で家庭に理想がないのだろうと思っていたが、やはり式のことにしても、いろいろと自分の考えがあったようだ。果たして彼は理性的な人間なのか、それとも快楽主義者なのか、後者であるなら、彼との生活は難しそうである。
「裕美が猫を飼いたくないのは、以前に飼っていた猫が死んで悲しかったから?でも、もうずいぶん経つんだし、やっぱりペットがいたら家にいたくなるものだと思うんだよ。コロナで外出もままならないし、僕は東京に行くことも多いし、家を空けることも多いだろうから」
彼の会社の本社は博多にあるが、メディアの露出の多い彼は東京にも支社を置いていて、芸能事務所にも所属している。会社はコロナ不況もそっちのけで収益を伸ばしているが、さらなる飛躍のためには今が頑張り時といったところだ。それでなくとも、事業なんかいつどこでどうなるかわからない。実際、彼と結婚して万が一子どもでもできた時には忙しくて私も借金がどうのこうの言って働く暇が取れないかもしれない。いや、子供がいなくったって、彼の付き合いの広さからして、私が家庭に入る可能性の方が高かった。私が寂しくないように猫を飼いたいなんて、優しい彼の考えそうなことだ。それにしても、以前私が猫を飼っていたことを彼が知っていたのが驚きだ。社会人になる少し前に死んでしまって、以来、周囲に猫のいた話をすることはほとんどなかった。
「家にいたくなったら、働きにも出たくなくなるし、借金も返す気がなくなるわ。あなたの言うことって、こんな風に時々矛盾するわよね」
私が吐息をつくと、彼はくすっと微笑を浮かべた。
「別に僕は裕美さんといられたら、それでいいんだよ。猫はさ。僕が裕美さんに会えたきっかけだから」
「え?」
私が顔を上げると、彼は懐かしそうに話を始めた。
20代後半に差し掛かった彼は会社での人間関係に悩んで前職を退職した後、一人で独立すべきかもう一度どこかで就職するべきか悩んでいたそうだ。そんなある日、新聞の投稿記事に死んだ愛猫の話を見つけた。彼が気落ちしていたもう一つの原因に、子供のころから飼っていた猫が死んだことにあった。21歳の大往生だったのだが、安楽死させるべきだったか、延命治療が正しかったのか、あるいはもっとよい世話のの仕方があったのではないか、仕事が忙しくてさびしくさせたのが、病気の原因ではなかったかと、自分の行く末のことより悩んで鬱々としていたそうである。そんなときに、その記事にはこんなことが書いてあった。
『猫は自分の死を人に見せないと言いますが、確かに弱った体で隙をついて庭に出ることはありましたけれど、うちの猫は庭先から姿を消すことはありませんでした。猫がしていたのは、病で痛んだ内臓を冷やせるひんやりとした場所を探すことだったようでした。玄関先のカーペットの下とか、トイレの前の流し台とか、押し入れの奥とか、見つけたら人はぎょっとするようなところですが、寝顔も場所も何とも暢気そうでもあり死にたいとは微塵も思っていない様子で自分の身体をひたすら労わっているのが、見習いたいほど立派な生きざまに思えました。元は野良猫で三毛模様は歪でしたが、うちで飼っていたのが申し訳ないほど立派で賢い猫だったのです。―』
その記事を書いて投稿したのは、誰あろう、わたしだった。実家のミミが死んだのはそれより10年近くも前だったが、何となく世の中の猫ブームに乗ってそんなことを書いたのだ。その投稿記事の人物がどんな人か彼は気になったらしい。お互いなんのきまぐれかと思うが、苗字で投稿していたため、すぐにネットで父の会社がでてきたようだ。河原柳(かわらやなぎ)という珍しい名字でどこどこ在住まで書かれるから、無関係でないことはすぐにわかる。彼は何となく運命を感じて父の会社に就職することにしたそうだ。初め、猫について書いたのは父だと思っていたそうだが、娘は子どもの頃作文を書くのが得意だったと聞いて、私が書いたことが分かったようである。その時はもう独立した後だったが、ちょこちょこ顔を見せる私に何となく親近感を感じていたらしい。
「猫を飼って、また死んだら、悲しい思いをするんだろう。僕なんか、家を空けてばかりでかわいそうな思いをさせるのかもしれない。でも、僕は君と猫を飼いたいんだ」
彼がいつになく饒舌に話すのを、私は黙って聞いていた。いや、彼はそもそも寡黙そうに見えて、話すのがうまいのだ。だから、仕事もうまくいっている。猫の記事のことなんて、ほんのささいなきっかけだ。だから、なんだということなんだけど、私の目からはポロポロと涙がこぼれてきてしまった。ミミのことなんて死にたいと考えていたさっきですら、少しも思い出していなかったのに、一度思い出してしまうと、いなくなったときの悲しさがどっと甦えってきた。それに加えて、今の状況だ。良い歳をして考えても仕方のないことだけれど、何の瑕疵もなく身綺麗なまま彼の元へ嫁にゆきたかった。借金をこしらえて、彼に負い目なんて持ちたくなかった。数百万円の借金をどう返済するかその目途もつけられない凡庸で平凡な自分が彼に対して恥ずかしくもある。
彼と出会ったとき、自分だけの王子様を見つけたと乙女チックに考えたりもしたものだ。だけど、シンデレラって自分の身に置き換えれば惨めだ。自分でどうにもできない状況を他力本願で解決してもらい、これからの幸せも他人任せに預けるのだから。猫は耳一匹しか飼っておらず、避妊手術をしたミミは家の中からほとんど出たことのない箱入りだったけれど、気高く賢く人生を楽しむ孤高の存在で人の手なんか必要としないところがあった。私もミミみたいに強くありたかったけれど、理想とは程遠い。
「私もあなたと猫を飼いたい。そしたら、いつかつらい時があったとしてもそれまで寂しくないから」
人間ってなんて傲慢で身勝手なんだろう。泣くまいとして俯いた私の視界に、彼の手が滑りこんできた。そして、彼はそっと私の指にイエローダイヤのついた婚約指輪をはめた。昼間に私が彼に返した指輪だ。
「猫の目みたいだって言ってたよね。こんな目の色をした猫を探そう」
優しい彼の言葉に、私は声もなく黙って何度も頷いた。
(完)
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