決して揺らぐことのない永遠のポラリス48

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決して揺らぐことのない永遠のポラリス48

「なんか、気を遣わせちゃったかな」 「今度何か奢ってやらねえとな」  改めて向かい合うと恥ずかしさがこみ上げてくる。大輝も同じようで、少しだけ頬が赤い。 「キヨ、あの……改めてお疲れ様」 「うん。来てくれてありがとう。俺の方こそ千秋楽行けなくてごめんな」 「同じ日にライブだったから仕方ないよ」 「でも、もう一回くらい観たかったな」  もう一回と言わず何度でも観たい舞台だった。贔屓目とかなしに、素直にそう思う。 「本当に凄いよ、大輝は。生まれながらにして人を惹きつける何かがあるんだと思う」 「そうなのかな」 「絶対そうだって。自分の凄いところって自分じゃ分からないもんなんだよな」 「キヨが言うなら間違いないね」  どちらからともなく寄り添う。抱きしめた後に一瞬汗臭くないかな、なんて考えが過ぎったけれど今更抱擁を解くことは出来ない。 「あのね、また次の舞台も決まったんだ」 「お! すげーじゃん。次も観たいな」  一人の役者として成長を続ける大輝をずっと見守っていたい。今度は恋人として。それに恥じないように新しい道を歩みたい。今はどうなるか考える余裕もないけれど。 「キヨ、僕から一つお願いがあるんだけど」 「ん? なんだ? ちゅーでもして欲しいのか?」 「……それも嬉しいけど」  思い切りからかってやろうとしたら、反論されなかったから拍子抜けだ。少し息を飲んで間を溜めてから、大輝は切り出す。 「僕もまた、キヨのベースが聴きたい」  まさかの言葉。もう自分の中では音楽という夢は終わったもの。それを再び望まれるとは。 「キヨが僕の舞台をまた観たいって思うように、僕もまたキヨのステージが観たい」 「でも、俺は。もう何もないよ」 「……沢山のものを持ってる」 「もう、俺は」 「キヨには、僕がいる」  薄茶色の虹彩がキラキラと瞬く。くっきりとした二重のラインが大きな目を強調していた。真っ直ぐに見つめられたら自分の気持ちを誤魔化すことなんて出来ない。 「自分のことは自分じゃ分からないよね。でも、キヨはまたベースが弾きたくなってる」 「随分と自信ある言い方だな」 「勘だけど、多分当たってると思う。僕、キヨのことなら何でも分っちゃうんだよね」  その通りだよ、なんて悔しくて言えない。代わりにキスで唇を塞いだ。都合が悪くなるとキスをする癖があるね、なんてその内言われたらどうしよう。 「なぁ、俺が今何を考えてるか分かる?」  星は瞬く。  どんなに暗い空でも、一人じゃないと教えてくれるかのように。鮮烈に瞬く。露頭に迷っていた清人を大輝が照らしてくれた。大きく輝く一番星。決して揺らぐことのないポラリス。 「ずっと、ずっと大好きだよ。大輝がいるなら俺、何だって出来るよ」 「僕も同じ気持ち」  喧嘩もするだろう。酷いことも言うかもしれない。逆に言われるかもしれない。「好き」と言う気持ちが薄らいでも、二人ならきっと離れない。何回目のキスだろう。これからも沢山するだろうし、数えていたらキリがなくなるから。大輝の唇の柔らかさだけに集中することにした。 「あー! やばいやばいやばい!」 「だから起こしたのによー」 「誰かさんのせいで夜更かしになっちゃったからね!」  ドタバタと玄関まで駆ける大輝。今日はラジオの打ち合わせがあるらしい。一年前、エースオブエースの舞台で華々しくデビューを飾った大輝はじわじわと知名度が上がっている。苦手な歌は完全に克服しきれてはいないが、徐々に改善されている。頑張っている本人には言えないが、歌が下手な大輝も可愛かったので上手くなるのは少し寂しい。 「おい、鍵忘れてる!」 「あ、ごめんっ!」  慌てて後を追いかけて鍵を渡す。一年経った今も何だかんだで仲良くやれていた。どうしようもないことで喧嘩したりもするが、清人は骨の髄まで大輝に惚れているらしく離れると言う選択肢は思いつきもしない。 「お前、このお守りないとすぐ愚図るからなー」  初めてプレゼントしたキーホルダーは未だに大輝の精神安定に役立っているようだ。 「大事にしてるってこと! キヨも嬉しいでしょ?」 「はいはい、嬉しい嬉しい」  小競り合いは日常茶飯事。愛のやり取り、なんて言ったら大輝はしかめ面をするだろうか。 「いってらっしゃい」 「いってきます」  何があっても朝と晩のキスは欠かさない。それを駿太と丈に話したら「いい加減にしろ」と飽きられたらしい。まぁ、清人が別の友人から話を聞いても同じことをいうだろう。 「俺も頑張りますかね」  清人も相変わらず音楽を続けている。今は特定のバンドに属さず、アイドルやソロシンガーのバックミュージシャンとして生計を立てている。元カーテンコールの名前は自分の思う以上に役に立ってくれた。積み上げたものは無駄ではなかったのだ。今日中に覚えて練習したい曲がいくつかある。ベースを弾いているのはやはり楽しい。送られてきたデータを流しながら黙々と弾いているだけで気分は上がる。 「いやー、おっさんになっても頑張ってるな」  ふと、学園祭で初めてステージに立った時のことを思い出した。あの時はボーカルだったけど、こうして音楽に携われているなんてあの時の自分は思いもしなかっただろう。  ──お兄さん! すごくかっこよかった!  そう言えばライブ後に声をかけてくれた少年は元気だろうか。彼の一言で全てが始まったのだ。 ──ああ、ありがと。 ──うん! 僕もお兄さんみたいになりたいなぁ。 ──じゃあ歌でもやれば? 楽しいぜ ──でも、僕……歌は下手っぴだから。別の方法でどうにかします!  当時は小学生くらいだったから今は大輝と同じくらいの少年。そう言えば目元も大輝にそっくりだったような。 「まさか、なぁ」  いやいや、同じ仙台にいてもそんな偶然はない。でも否定しきれない。大輝が帰ってきたらそれとなく話を振ってみよう。  もし、清人の予想が当たっていたら。 最初から大輝は清人の道標だったのだ。そんな御伽話よりもロマンティックな話。ある訳ないけど、本当にそうだったら。運命、ってきっとこういうことなのだろう。相棒のベースを掻き鳴らす。赤いボディーは何年経っても鮮やか。低音に心が躍る。心臓がビートを刻んだ。 運命の答え合わせの為にも、一刻も早く君に会いたい。
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