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パシャリ、パシャリ。
紅葉した木を、秋の花を、赤く燃える夕焼けを、眠たそうに欠伸する犬を、買ったばかりのケータイで撮る。
母が「最近のケータイは写真もきれいねぇ」と言ったそれが、夕日を映して燃えているように見えた。
ひゅうっと通り抜けた風が冷たくなっていて、もうすぐ秋も終わるのだろうと思いながら、このケータイを買った三日前から日課になっていることを――大きな大きな木を写真に収めることをする。
ほうっと息を吐き出すと、それが白く浮かび上がった。
秋はもうすぐ終わる。一層の冷え込みに身震いし、薄手のコートのポケットに手を突っ込んだ。自分の手とコートの生地が触れ合って徐々に温もりを感じながら、木を見上げていた視線を下にさげ――はっとして斜め上へ持ち上げる。
――視線が交差した。
隣にあった白い洋館からのぞく、白い顔の中、青く輝く美しい瞳と。
赤い夕陽が、照らされた黒髪に淡く浸食しているのを、その整った顔の中に埋め込まれた青い宝石を、私の目に写しこんだ。
ケータイを持つ手が震える。
落としてしまわないよう、ぎゅっと握りしめる。
少年の無表情は彼自身の美しさとの相乗効果で人形のように見えた。
一歩後ずさる。大丈夫、覚えた。こんなに綺麗なものは忘れない。そう確信した瞬間、ばっと踵を返し、走り出していた。
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