収まりきらない、

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 次の日も彼はいた。  私が木を撮りにくるその時間には、あの日から一週間、欠かすことなく二階の窓から顔を出していた。来た時に居なくても、気が付いた時にはそこにいる。  顎まである線の細い黒髪をサラサラと風に揺らして、本を読んだり音楽を聴いたりしつつ、時折私の方をチラリと見やる。時にはじっと見つめている。そういう視線を感じながら、あの青がこちらを見ていると思うとひどく落ち着かなかった。  いつもと同じアングル、同じ位置からその木を写す。 (こんなに写真にハマるなら、ケータイよりもデジカメを買ってもらえばよかったかな。……まあ、この木くらいしか撮ってないけど)  そんなことを思考しながら、毎日毎日、飽きもせずその木を撮っていた。  同じものを撮っていても、その日の空や空気によって、木もまた違って見えるのが、面白くて。  正反対に、一向に変わらない彼との距離感にも、むしろ心地よさを感じるようになっていった。
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