収まりきらない、

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 すっかりと冷たくなった冬の景色に、私の息がふわふわと空気を形作った。冷たい手にはあ、と息をかけてこすると、一瞬暖かくなったがすぐに冷たくなってしまう。  マフラーはしっかりまいてきたのに、手袋はケータイの操作をするときに邪魔だと持ってこなかった。それを少々後悔しつつ、洋館の方へ目をやった。少年と目は合わない。  この距離は、もうすっかり私の日常になっていた。  私たちの間に言葉はない。だけど時々合う視線と視線でのコンタクト。  少年と交わすそれにも慣れて、以前のような、逃げたくなるほどの背徳感を感じることはなくなっていた。  ただ美しいと思う心は消えるどころか色あせることもなく、私の中で静かに停滞している。  十二月二十五日。十月の初めから続けていた木の撮影は、ケータイの中の存在感を増している。  雨が降ろうが雪が舞おうが私はそれをやめなかったし、彼も窓から離れはしなかった。毎日同じ時間に私がその場所へ行くことが、その時彼が窓の近くにいることが、暗黙の了承になっていた。  逆に言えば、それだけが私達の繋がりで、私はそれが心地よかった。  一日でもやめれば壊れてしまうかもしれない。そんな脆く薄い関係が消えていくのを、心の奥底で恐れている。  パシャリ。薄く雪を被った木を写真に収める。終わってデータを確認していると、頭に何かが当たる感覚がした。固くはない。だけど先がやや尖っていて、私は思わず「いてっ」と声を上げた。  パサッと音を立てて道路に落ちたものを振り返ってみてみると、真っ白な紙飛行機があった。  周りを見渡して誰もいないことに気付くと、私は建物を見上げる。いつも無表情な彼が呆れたような顔をしてこちらを見ていた。  首をかしげて見せると大きなため息をついて、それから近くにあった分厚い本を取り出し開閉してみせると、わかった? というような顔をして、私に行動を促した。  少々不安になりながら、こういうことか、と紙飛行機の翼をつまみ、開いてみる。 『メリークリスマス』  鉛筆で書かれた文字がそこにあった。  びっくりして顔を上げる。彼は私の驚いた顔を見て口元に薄い笑みを乗せ、してやったりという顔をした。それすら美しいというのだからどうしようもない。 「メリークリスマス!」  マフラーを下し、叫んだ。相変わらず白い息を吐き出しながら寒さに赤くなっているだろう鼻を晒している私の姿は、美しい彼とは違いとても滑稽だろう。  そんなことも気にしていなかった私は、ただ彼に言葉を返したかった。  彼は驚いた顔をして、それから困ったような呆れるような、優しい笑みを浮かべた。  紙飛行機の一言が、私と少年の初めての言葉になった。
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