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あれ以来、私達の間に言葉はない。
変わらない無言の時間は、お互いが意図して作っているようにも思えた。
ただあの日から、目が合うということに対する感覚が変わった気がしている。
毎日毎日飽きもせず木を写しにくる私に、彼はよく呆れたような笑みを見せるようになった。その青い瞳が「よくやるな」と言っているように思えて、私は時折舌を出した。
そんな穏やかな日々の中、彼が時々意地の悪くない笑みを見せると、パッと空気が華やいで見えた。
「今日も行くの?」
大した趣味のなかった私に毎日写真を撮るという日課ができたことを、母は心から喜んでくれた。
秋はまだ暗くはない時間。だけど冬になると街灯がなければ先が見えないほどの闇。そんな時間でもいってらっしゃいと笑顔で送り出してくれる。
彼の家の周囲は家がない。当然街灯も少なくて、冬が奥まっていくにつれて彼の笑顔は見づらくなっていた。
それでも私は行くことをやめない。彼も、そこから見下ろすことをやめない。
そんな不思議な雰囲気が、私と彼の間にずっと存在していた。
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