第9章 地獄からの脱出

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第9章 地獄からの脱出

私はとりあえずシャワーを浴びて、ホテルに移った。そこで、これからのことを考えようと思ったのだ。でも、狭いホテルの部屋で曇った冬空を見ていると、ますます気が滅入った。あまりに自分のしていることが酷すぎて、姉にさえ話す気がしない、というより話したくなかった。落ち込みすぎた時は、人に話すことさえできない。人に相談できるというのは、まだ大丈夫な証拠だと思った。月並みだけど、とにかく現実から逃避したくて、お酒を飲んでは寝た。起きたくなかった。考えたくなかったからずっと寝ていたかった。心配した徹から電話やテキストが来た。また、警察沙汰になったら大変なので、”大丈夫”とだけ毎回テキストに返信したが電話もしなかったし、居場所も知らせなかった。 離れてみたら、勇のことも少し気になった。私も人並の親だったのかと思うと少し安心した。都内のホテルも高くつく。かといって、編集者の人からのメールや電話も無視していたため、仕事もなくなってしまった。そろそろ貯金も底をつくころだと思ったころ、どこか遠くに行って、人生をやり直そうかなと思えた。落ちるところまで落ちて、気分が少し上向きになったのかもしれない。行くなら海がきれいで暖かいところがいい。ハワイに行きたかったが、パスポートも家においてきてしまっているし、今更のこのこパスポートをとりに家にも戻れない。それにハワイに行くほどお金も残っていない。それで、日本最南端の有人島である波照間島(はてるまじま)に移り住むことにした。そのころには勇が生まれて3か月ほど経っていた。 家を出る時持ってきた服とPCを入れたスーツケースだけ持って、飛行機とフェリーを乗り継いで、船酔いに苦しみながら、私は波照間島に到着した。まだ肌寒い東京と違ってTシャツと短パンでいれるほど暖かかった。まだ観光シーズンには少し早かったので、住む所もすぐ見つかり、二日後にはお土産物屋さんでのアルバイトも決まった。真っ青な空と透き通るような海を毎日眺めていたら、病んで荒んでいた私の心も洗われていくような気がした。すると無性に勇と徹に会いたくなった。東京のタワマンで雲の上の栄光を手に入れたのに、自分のせいで転落して没落してしまった私。でも、青空の下できらきらと太陽の光を浴びて輝く透明な海を見ていたら、もう一度頑張ってみようかと思えてきた。まず、徹に電話してきちんと謝るべきだ。徹がなんていうかわからない。でも、彼に会いたくて、そしてあんなに憎たらしいと思った勇にも会いたくてたまらなくなった。
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