第1章 出会い

1/1
9人が本棚に入れています
本棚に追加
/10ページ

第1章 出会い

私の夫、人気俳優の大木徹との出会いは、私の書いた本がきっかけだった。大学を卒業してOLをしなが小説を書いては、せっせと小説投稿サイトに投稿して楽しんでいた。連載を載せているうち少しづつファンも増えてきたので、ダメ元でサイトのコンテストに小説を出品してみた。そしたら思わず優勝したのだ。その後トントン拍子に話が進み、信じられないことに、出版までこぎつけることができた。その後書いたW不倫の本が大当たりして びっくりすることに今度はドラマ化まで決まった。勿論、ドラマの脚本家はいるのだが、原作が自分が書いた本だったので、私も撮影現場を見に行くことがあり、そこで出会ったのが主人公の恋人役を演じていた徹だった。私も徹の大ファンで、彼がドラマにでると決まった時はびっくりした。 撮影現場が物珍しくて、仕事の打ち合わせが終わった後も、頼んでセットの端に座らせてもらって撮影の様子を見ていた。そうしたら、本物の徹が近づいてきて、 「野田真司役の大木徹です。」 と挨拶された。あ~、なんて格好いいんだろう。月並みな言葉だけど、本当にそう思った、というか、その他の言葉が見つからない。座っているのも申し訳なくて、急いで立ちあがって「作家の江本 美沙です。」 とぺこっとお辞儀したら、にっこり笑ってくれた。笑うとえくぼが出て、ハンサムな顔が急に人懐っこくなった。 それからも 彼に会いたくて、何かしらと理由をつけては撮影現場に足を運んだ。気分が上がれば仕事もはかどる。それに、映画撮影なんて見たこともないので、本のネタにもなりそうだ。一石二鳥。なぜか私が撮影現場に訪れるたびに徹が話しかけてきてくれ、話す回数も増えていった。彼は人気俳優に特有の気取ったところもなくて、本当に普通の人だった。イメージ作りのために事務所から言われてジムに通ってトレーニングはしているけれど、本当は漫画がすきでゲームが大好きというオタクなところも似ていた。 人気俳優と付き合うのはものすごく難しい。最初は打ち合わせっぽく昼間のカフェで会ったりしていたが、そのころ私も女性誌を中心に名前と顔が表に出るようになり、実家暮らしだった私は、彼の家で過ごす時間が増えていった。 「徹って、人気俳優なのに、本当に普通だよね。気取ったところもないし、気も使えるし、ご飯も上手」 彼が作ってくれたオムライスを頬張りながらいうと、 「俺さ、子供のころから少し子役やってたから、撮影現場が遊び場みたいなところがあって、自分が特別っていう気があんまりしなくて。学校でも、周りに芸能人や有名人の子供も超金持ちの社長の子供も結構いたし。あいつらすごい家に住んでるんだよ。勿論車や持ってる物もすごいし。でも、ちゃんとしてる家の子はそんなことひけらかさないし、みんな普通だよ。ほら、この間会った武のお父さんって演歌歌手の加藤文也だよ。」 びっくりだ。言われるまで全然わからなかった。金持ちの匂いさえしなかった。バンドをやっているという彼は、はっきり言って貧乏な感じさえした。お父さんが厳しい人で、一からのたたき上げだから、バンドをやるなら自分の力でやれと言われたらしいし、本人も親の七光りは使いたくないらしい。いつも親と比べられる人生。それはそれで辛い。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!