第2章 結婚しました

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第2章 結婚しました

そんなこんなで一年ほどたったころ、 「ねえ、起きてる!週刊誌にあなたと大木徹の記事が出てるわよ!!! どういうこと~???」 いつも仕事で朝など家にいない母が部屋に入ってくるなり叫んだ。昨日締め切りに間に合うように、明け方まで仕事をしていたので、頭が働かない。 「えーーーー?!」 母に実は付き合っていることを話すと、母はびっくりしてその場に座り込んでしまった。友達の多い母に口止めをして、徹に電話したら、意外に落ち着いていて、今電話をしようと思ったところだと言われた。マネージャーと事務所の社長と話して、交際していることを認めるFaxを関係者に送ることにしたけど、美沙はそれでいい?と聞かれた。またまた私はびっくりして、 「あ、うん」 と答えるのが精一杯だった。 それからは嵐の中に身を置いたような日々だった。仕事の締め切りもあるし、忙しい徹のスケジュールと合わせて、徹の両親(離婚している)に会ったり、彼がうちの両親に挨拶に来たり、もう隠れて会うのが面倒くさくなったころ、徹から 「結婚しよう」 と言われた時は、心底ほっとした。徹と付き合い始めたころ、何度もこの状況を妄想しては、一人芝居までしてエキサイトしたものだし、きっと天にも上るほどうれしいってこのことだろうなと思っていたのに、パパラッチをまくためにいろいろと小細工するうっとおしさ、人気物の恋人ということで受ける世間の中傷、ますます忙しくなる仕事の締め切り。心身ともに疲れ切っていて、その瞬間は想像とは全く違った、安堵感以外の何物でもなかった。 結婚式は月並みだけど、私と徹が大好きなハワイで家族だけで行った。疲れ切っていた私たちは、籍だけ入れようかと思ったけれど、姉の美幸に説得されて結婚式をすることにした。これが意外に楽しくて、二人で誰の目も気にせず、真っ青なビーチでのんびりできて、とてもいい息抜きになった。ヤシの木の間から登っていく大きな太陽を眺めながら、徹が「幸せになろうね」と私の肩を抱いた手に力を込めた。左の薬指にはめた結婚指輪がキラキラ輝いていた。 世間とは不思議なもので、いったん結婚して二人の関係が公になると、まるで今までのことが嘘だったかのように、騒がなくなり、パパラッチも姿を消した。たまに”大木徹、愛妻とデート”みたいな記事が出るけど、前に比べれば気にもならない程度だ。人気俳優だった徹の人気が結婚によって落ちるのではないかと事務所も心配していたが、かえって“イケダン”だのとちやほやされて、人気が落ちるどころか上がったくらいだった。私も人気俳優の妻ということで、エッセイやら、女性誌のインタビューなども増えて、ますます忙しくなった。二人とも仕事も私生活も絶好調。そんな感じの日々が2年ほど続いた。
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