第3章 妊活のきっかけ

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第3章 妊活のきっかけ

その日、近所に住んでいて、最近子供が生まれた姉が赤ちゃんをつれて遊びに来ていた。産休をとっていて暇なのだろう。浩太郎という古風な名前の赤ちゃんは まだうっすらとしか髪が生えていないので、笑ってしまうほど義理の兄にそっくりだ。 「みーちゃん、浩太郎、健ちゃんにそっくりだね」 笑いながらそういうと、赤ちゃんも笑った。目が細いところもそっくりだ。姉は、 「ほんと、男の子でよかったよ」 とため息交じりに言ったけど、やっぱりかわいいみたいで、 「浩ちゃ~ん」 といって、甘い声であやしている。抱き上げて膝に乗せて、膝を上下に動かして、赤ちゃんをバウンスさせると、それにつられて きゃ、きゃと声をあげて笑った。2週間ほど前に会ったときは笑ったりしなかったのに、びっくりだ! 「美沙は子供つくらないの?」 赤ちゃんをあやしながら姉が聞いた。よく聞かれる質問だ。結婚して2年も経つと、世間は若夫婦が子供をつくらないのか気になって仕方がないらしい。不妊治療をしていた友達が、この質問が世界で一番嫌いだと言っていた。そうだろうな。不妊治療をしていない、妊娠のことなど考えていない私でさえ、ほっといてほしいと思うぐらいなのだから。30歳を過ぎたころ、姉は最近はやりのインターネットの出会いサイトで出会いパーティーを繰り返した末、あっさりアメリカの本社から転勤でやってきた2歳年下のアメリカ育ちの日本人と電撃結婚した。絶対アメリカ育ちに見えないけど、つい英語でつぶやいてしまう彼のギャップがおかしくて、最初は失礼だけど笑ってしまった。でも、さすがハーバード出で外資系投資銀行のトレーダーをしている彼はタワマンに住すんでいて裕福そうだ。将来は姉もアメリカに行ってしまうのだろうか・・・?そう思うと寂しい。 その数日後、泊りのロケから帰ってきて久しぶりに家で一緒に晩御飯を食べながら、それとなく徹が子供を持つことをどう思ってるのか聞いてみた。こういうことって、案外夫婦間でもセンシティブな話だ。特に、今まで二人の間で話題に上ったことがないのでなおさらだ。 「ねえ、徹? 子供のことって考えたことある? なんか、私たち、自分たちのことで精一杯で、子供のことってあんまり話したことなかったよね」 と照れもあって少し濁し口調でいうと、徹が 「そうだね。俺んとこ、両親離婚してるし、一人っ子だから家族ってあんまりイメージがわかなくて」と言った。 「でも、その分憧れみたいなのもあるかもしれないな~。美沙とおれの子供なら会ってみたい気がする」 そういわれると、想像力の逞しい私は、すぐさま彼と自分の子供を徹とあやしているところを思い描いてしまった。姉の子供の浩太郎があんなに義理の兄にそっくりなのだから、きっと私たちの子供も、彼に似てかわいいだろうな~。そう思うと今まで考えたこともなかったのに、急に彼との子供がほしくなった。 「ねえ、トライしない?」 気づくと私は徹にそう言っていた。まさかそれが私の転落人生の始まりとはつゆとも知らず・・・。
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