第5章 そして、ついに出産

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第5章 そして、ついに出産

予定日の一か月ほど前、姉が今はやりのベイビーシャワーをしてくれた。姉は義理の兄やアメリカにいる親戚から情報を集めて、友達や仕事関係で仲良くしている人たちを数人よんで楽しいお祝いパーティーをしてくれた。そのころには私の大きなお腹ははちきれんばかりで、赤ちゃんのかかとが伸びきった皮膚を通して感じられるくらいだった。しかも胸骨の下のあたりを蹴られたり、私の意思とは関係なくお腹の中で動き回るので、まるでエイリアンが自分の体の中に住んでるみたいで、ひたすら早くできてほしかった。そんな風に思ってしまう自分はおかしいのだろうか? 自嘲気味に肩をすくめた。 そしてついにその日は来た!だんだん間隔が狭くなっていく陣痛。この日に合わせて仕事をセーブしてくれていた徹と、はちきれんばかりのお腹を抱えて急いで徹の車で病院に向かった。車の中で生まれでもしたら大変だ! 向かうは有名セレブ病院。ここは全室個室なので、プライバシーも守られている。8時間に及ぶ過酷な陣痛を経て、ついに徹と私の赤ちゃんが誕生した。女の子だったら、理恵、男の子だったら勇と決めていたので、赤ちゃんの名前は勇になった。まだ 生まれたばかりでわからないが、徹似・・・なんだと思う。 生まれたばかりの赤ちゃんは本当に小さくてびっくりした。そりゃ、私のお腹の中にいれるくらいだから小さいのは当たり前だが、抱いたら壊れてしまいそうなくらい、手足も細くて華奢だ。よくお猿さんみたいな赤ん坊という表現があるが、まさにその通り。こんなハンサムな徹の子供でさえ、やっぱりお猿さんみたいだ。 ずっと陣痛の間付き添っていてくれた徹が感激して勇を抱いて泣いている。赤ちゃんは勇という名前どおり、泣き声が勇ましく大きかった。出産は大変だったけど、これで体が自分だけのものに戻ったと思うとうれしかった。でも、私おかしくない? 赤ちゃんが無事生まれて嬉しい。でも、この子が生まれて幸せ~、とか、かわいい~っていう感情が湧いてこない・・・。横にいる徹の方が赤ちゃんを抱いてはしゃいでいる。 「お母さん、じゃ、赤ちゃんに母乳をあげましょうね」 と看護婦さんに言われて胸に赤ちゃんをのせられても、どうしていいかわからない。なんだか泣けてきた。看護婦さんは、 「よかったですね~。元気な赤ちゃんで!」 と私がうれし涙を流しているのだと勘違いしている。徹も、 「美沙、本当にありがとう。頑張ったね」 といって 頭にキスしてくれた。でも、私は単に急に人間として 私のお腹の中から現れたこの赤ちゃんに圧倒されて泣いてしまったのだ。これから、この赤ちゃんを抱えてどうしたらいいのだろう。喜びというより不安でいっぱいだった。
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