第7章 不安と自己嫌悪との戦い

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第7章 不安と自己嫌悪との戦い

カチャカチャと鍵を開ける音がして、ドアが開いた。徹が帰ってきた。明かりのついていない部屋の隅で眠る勇を抱いて泣いている私を見つけた徹はびっくりして、 「美沙、何があったの?!大丈夫?」 と駆け寄ってきた。 「私、もうだめ。勇と二人で家にいれない。可愛いと思えない」 徹の胸に顔をうずめて泣いた。そうすると私と徹に挟まれた勇が起きて、また泣き出した。徹は勇を抱いて、すっと立ち上がり 「よしよし、いい子だな~」 と言ってあやしながら、寝室に行きおむつを変えているようだった。そして、キッチンに戻ってきてミルクをつくり、勇に飲ませた。ごくごく音をさせながら勇はミルクを飲んでいる。きっと泣きすぎてお腹がすいたにちがいない。でも、部屋の隅に残された私は、二人をぼーっと見ながら疎外感さえ感じた。またしても、勇に徹をとられた感が心の中にむくむくと湧き上がってきた。このままでは、もともと愛情を感じられない勇をもっと嫌いになってしまいそうだ。こんな母親っているだろうか? 自分の子供を愛せない母親。完全に私は母親失格。ただ生んだだけ。勇を可愛いとは思えないかったけど、こんな母親を持った彼の不幸を可哀そうに思った。 こんな私を心配した徹は、 「ねえ、美沙。シッターさんを雇おうか?」 と言った。私は家に人をいれるがいやだったから、今まで掃除も自分たちでやってきたが、今回はしょうがなく徹の勧めに従うことにした。何もやる気にならない私に代わって、徹が知り合いにきいてシッターさんを探してきた。優しそうな60歳前後のシッターさんで 私もこれで何とかなるかもと少し希望が持てた。 でも、人がつねに家にいるという状態が落ち着かないし、ちゃんと赤ちゃんの面倒を見れない私を見下しているよねと思うといたたまれなくなって、私は勇をシッターさんに任せてカフェに行ったり、友達と会ったりして 外に出るようになってしまった。子供を放り出して自分だけ外で楽しんでいるという罪悪間にさいなまれながら家に帰ると、シッターさんと目を合わすのが怖くて さっと自分の部屋に入り出てこなかった。シッターさんだって、このお母さんおかしいって絶対思ってる。そう思うとやりきれなかった。 自分の部屋ですることもなく、カフェでのヒューマンウォッチングにもあきると、そろそろ仕事を始めようという気になった。ところが、嘘のように頭に何も浮かんでこないのだ。愕然とした。もともと妄想癖があり、小説の題材に困ったことなどなかった私がどうしたことだろう・・・。ぱっと浮かんだアイデアも構想を練り始めると止まってしまう。前のように、アイデアの種から芽が出て花が咲いて、とはいかず芽がでても枯れてしまうのだ。最初は軽い気持ちでブランチにミモザなどなんて思って飲んでいたお酒の量も、ストレスからだんだんと増えていった。
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