エピローグ

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エピローグ

あ~、本当にこれが自分の生活なのだろうか?! 2年前には考えもつかなかった。都心の高層マンションの大きな窓辺に立って東京の街を眺めながらつぶやいた。秋晴れのこんな日は富士山まで見える。まるで世界のてっぺんに座っているみたいだ。でも、どちらかといえばネガティブでメンタル弱めの私は、幸せすぎて怖いのだ。正面に見える東京タワーの上にグラグラしながら座っているような居心地の悪さ。登り切ったら、もう落ちるしかないではないか・・・。そんな不安に押しつぶされそうな気分になる。成功者とはみんなこんな気持ちを持ちながら生きているのかな。 「美沙、今日は撮影6時に終わる予定だから、一緒に夜ご飯外で食べようよ。」 徹が部屋に入ってきて私の肩を抱きながら言った。優しくて誠実な徹。人気俳優の彼は忙しいけど、時間をやりくりして二人で過ごす時間をいつも大切にしてくれる。こんな彼が自分の旦那様だなんて、今でも信じられない。いつもきれいな女性に囲まれて仕事している彼が、こんな普通の私を選んでくれたなんてなんて!「男性が女性を選ぶ」という表現は好きではない。だけど、彼の場合、引く手あまたなんだから、この表現しか思い当たらない。 「うん。そうしよう!」 答えながら、彼の胸に頭を寄せたら、彼が肩をきゅっと抱きしめて頭のてっぺんにキスしてくれた。さっきの不安な気持ちも、霧が晴れるように消えて幸せな気分でいっぱいになった。結婚して2年、幸せすぎることに不安を覚える以外、なんの不安もない。 さあ、仕事に取り掛かるとするか。PCを開けて昨日途中まで終わらせたエッセイの仕上げにかかった。私生活もさることながら、仕事も波に乗っている。30代向けの女性雑誌の小説の掲載、主婦向けの料理雑誌のエッセイ。時たま入る女性誌のインタビュー。その他、単発ものが入ってくることもある。時間のある時には、プロットを考えたり、気分がのっている時に、短編小説を書いておくことも大事だ。後々自分を助けることにもなる。
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