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彼氏がいないのは、今現在のことだけではなかった。二十二年間、そういう存在がいたことは一度もない。実は、初恋すらまだだった。
わたしは、恋する気持ちがわからない。
男性と話していて「この人好きだな」と感じることはある。でも、言うなればそれは「ラブ」ではなくて「ライク」だ。
一緒にランチに行ったら楽しそう、とワクワクする気持ちなら理解できる。
でも、会いたくて泣きたくなるだとか、触れてみたい、キスしてみたい、それ以上のことをしてみたい、だとかいう気持ちは理解できない。
思春期になって、周りのみんなが当たり前に恋に落ちるのを、不思議な気持ちで見ていた。
身体は至って健康なはずなのに、わたしはどこがおかしいのだろう。
「店に、気になる男性なんかは現われないのか?」
パパは心配そうに訊いてくる。さすがにこの年齢になって初恋もまだ、というのは、親にとって不安材料でしかないのだろう。
「そう言われても……」
眉間にシワを寄せながら、考える素振りをしてみせるけど、そもそも「気になる」という感覚がイマイチわからない。
「商品部の福永くんなんてどうだ。男前だし、出世株だぞ」
「福永さん?」
ここでパパから男性を薦められることも予想外だったけど、その名前もまた予想外だった。予想外も予想外。思わず目をしばたたいてしまう。
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