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「ヨコオ株式会社」は、今から約四十年ほど前に創業した小さな地方企業だ。  関東の郊外を中心に、路面型のファッションチェーン・ストア「BEYOK(ビーヨック)」を三十店舗ほど展開している。  元々は、農業従事者に向けた、作業用の衣料品を扱うお店として始まった。  業績はまずまずで、徐々に店舗を増やしていき、そのうち千円を上限としたファストファッションを取り扱うようになると、それがバブル期に大当たりした。首都圏の大型商業ビルに、単独の店舗を構えるまでになった。  ところが、あっけなく泡が弾けると、売上げは急速に落ち込んでしまう。商業ビル内の店舗も、テナント料の支払いが苦しくなり撤退を余儀なくされてしまった。  それでも、深刻なほど経営が傾くことは免れた。当時、世の中は世界的な不況に見舞われていたが、それが逆に功を奏した形になった。安価でそれなりに高見えするアイテムを揃えていたため、若い主婦層を中心に重宝されたのだ。  ゆるやかに上昇気流に乗ってきたヨコオ株式会社が、オリジナルブランドとしてBEYOKを立ち上げたのは数年前のこと。  カジュアルで機能的をリーズナブルに、をコンセプトに、全店をあげて新プロジェクトに取り組むことになり、既存の店舗は大規模なリニューアルが実施された。店名もそれまでのヨコオから、すべてBEYOKに変更された。 「~なる」という意味を持つ「be」に「YOKOO」の頭三文字をくっつけたブランド名には、自社が発展していくこと、さらには従業員たちの暮らしが良くなっていくこと、といった現社長の願いが込められている。  BEYOKは現在も、プチプライスの土俵で細々と生きながらえている。
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