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 福永さん。昨日、パパとの会話に出てきた名前。  社内一忙しい人、と言われるその人と、まさかこんなに早く遭遇するとは思わなかった。つい足を止めて、目を見開いて横顔を眺めてしまう。  わたしが初めて福永さんと会ったのは、二年前の入社式の時。それから今までの間に、外見と名前についての感想を本人に伝えたことはない。  社長の娘とはいえ、実質的には売り場の一担当者に過ぎないわたしと、本部でいちばんの権限を持つ商品部、その最高責任者の部長である福永さん。そんなことを気安く伝えられるはずもない。しかも、福永さんは姉の同期。わたしより十歳も年上なのだ。  フレンドリーになれない理由は、まだあった。  福永さんがゆっくりとこちらを振り向いた。視線とか気配とか、そういうものを感じたのだと思う。  心臓が小さく跳ねて、とっさにうつむいた。  瞳が鋭い。怒っている。それはそうだ。親しくもない相手からじろじろ見られていたら、福永さんでなくたって気分が良くない。
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