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プロローグ
背中を下にして、どこまでも沈んでいく。
さして深くないはずなのに、伸ばした手はもう水面に届かなかった。
底がぽっかりと抜けてしまったかのよう。暗く冷たい穴の奥へと、重力に素直に、果てしなく落ち込んでいく。
水圧が重い。息苦しい。
口から、鼻から、目から、身体中から、白いビーズにも似た気泡が立ちのぼり、五感を埋め尽くしていく。
意識が遠ざかる。
消えていくのだ、と思った。
この地球から、この世界から、一つの存在が消えていく。
そこで、短い生は幕を下ろすはずだった。
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