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自分の部屋に戻っても、まだセンリさんの顔は青ざめたままだ。
「ちーちゃん、大丈夫?」
千尋が温かいお茶を入れたカップを手渡し、何度も肩を擦る。
「…千尋、俺はもう…大丈夫だから……お前も仕事にもどれよ…」
「でも…」
「大丈夫だよ、本当に……悪かったな、心配かけて」
千尋が何度も首を横に振る。
そんな千尋の頭をセンリさんは優しく撫でた。
「じゃあ俺、局に戻るけど…何かあったら直ぐに電話して」
心配そうに何度も振り返る千尋に、でき得る限りの笑顔を返す。
千尋が居なくなった後、大希も俺も一言も発する事無くただ時間だけが流れた。
「……何も……訊かないのか?」
先に沈黙に耐え切れなくなったのは俺だった。
「……彼女が誰なのか……何で今日みたいな事が起きたのか…訊かないのか?」
「聞いたよ…」
その言葉に大希を見つめる。
「…え?」
「何日か前に、千尋君から…聞いたんだ。昔センリさんがアイドルだった事とか……どうしてアイドルを辞めたのか…」
「………そ…っか…」
センリさんが俺から視線を逸らした。
「ねえ、センリさん……一つ訊いても良い?」
「………何だ」
「昔そんなにも怖い目に遭ったのに……どうしてこの仕事を続けてるの?」
センリさんがまた俺を見た。
何か言おうとして小さく震えた唇は、何も語らないまま再び閉ざされた。
「ごめんね、変なコト訊いて。今の忘れて」
誤魔化す様にぎこちない笑いを浮かべて立ち上がると
「今日はもうゆっくり休んで。イヤな記憶は寝て忘れちゃうに限るよ」
車の鍵と自分の上着を掴んで踵を返した。
「大希っ!」
「…え?」
離れて行く大希の袖を思わず掴んだ。
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