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「センリさん?…どうしたの?」
袖を掴まれ振り向いた視線の先で、センリさんの瞳は不安気に揺れていた。
「帰るなよ…大希…」
僅かに湿度を帯びたその瞳に、一気に暴走しそうになる理性を必死で抑えこむ。
「大丈夫だよ、センリさん。もう何も怖い事は…」
「お前の所為だ…」
「え?」
「…何度も辞めようと思った。この業界に関わる仕事をしてる内は絶対にあの事件からは逃れられないって分かってたから…でも…」
俺を見る大希の眸を真っ直ぐに見つめる。
「この名前で仕事したりして未練がましい事も分かってた。けど、お前と出会ってマネージャーとして一緒に居る内にどんどん惹かれて好きになって……全部お前の所為だっ!」
見当違いの八つ当たりもいい処だと分かっていても…止められなかった。
「お前が居たから、お前と…大希と一緒に居たかったから辞められなかった、辞めたくなかった」
「…センリさん」
大希の指が頬に触れる。
「嬉しい…センリ、大好きだよ」
「…俺も……好きだよ」
そっと優しく、でもしっかりと抱き締めてくれる腕の中で、その温もりに目を閉じた。
「センリさん…センリ…好きだよ」
何度もキスを交わしてから、服を剥ぎ取ったその体に唇を滑らす。
「…や、ヒロ……そこは…」
大希の唇が右の脇腹に触れて思わず体を捩る。
「センリ?」
「そこ…昔、襲われた時に切りつけられたんだ。傷は大した事なかったけど……よく見ると傷痕が分かるから、だから…」
今までも何度も触れた筈のそこに指先で触れる。
柔らかく震える熱を帯びて薄赤く色づいたその肌にもう一度、今度は強く口付けた。
「あっ、……ヒロ…」
「センリ、そんな風に言わないで。センリの身体に傷痕なんて何処にも無い…貴方の身体に跡をつけて良いのは俺だけだから」
大希の言葉が肌から浸透して全身に痺れの様に広がる。
嬉しいと、俺は幸せだと、そう伝えたいのに言葉が出て来ない。
だから、その代わりに思いっきり大希を抱き締めた。
「……責任取れよ、大希…俺に跡をつけるなら」
「うん。俺の所為だってセンリさんが言うなら、センリさんが望むならいくらでも…だからセンリもずっと俺の傍に居て…」
お互いの吐息と温もりだけを感じながら、何度も肌を重ねた。
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