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帰宅したのは深夜0時を回っていた。
「ただいま」
「お帰り、ちーちゃん」
「何だ、まだ起きてたのか」
リビングのソファに寝転がっていた千尋が、読んでいた雑誌をテーブルに置くと
「…ちーちゃん、どうかしたの?」
両手で挟む様に俺の頬に触れた。
俺より少し細いその手首を握って笑う。
「大丈夫だ。ちょっと疲れただけだよ」
「…やっぱり、ラジオの仕事の所為?」
「……違うよ。千尋は何も心配しなくて良い」
「でも…」
「そんな事より、晩メシ作ってくれたんだろ?」
「うん。温め直すから、その間にシャワー浴びてきなよ」
千尋に小さく礼を言うと自分の部屋に足を向けた。
食事を済ませソファに座ってスケジュールの整理をしていると、隣に千尋がピッタリ寄り添う様に座った。
「ねぇ、ちーちゃん」
「ん?」
「中塚さんてちーちゃんの恋人でしょ?」
飲んでいたお茶を盛大に噴き出してしまった。
「わあっ?!ちょっ、ちーちゃん!大丈夫!?」
「ゲホッ!!…なっ、えっ、ゲホッ!ちひっ…」
「布巾…あ、ティッシュで良いよね?」
噎せて動けない俺に代わって千尋はテキパキと動き、テーブルの上も俺の周りも綺麗に拭くと
「ちーちゃん、さっきの話だけどそうなんでしょ?」
再び俺の隣に腰を下ろし、そのキラキラした愛らしい瞳で俺を見た。
「……そんな訳…無いだろ…」
「あ、ちーちゃん嘘吐いた。昔っから俺に『嘘を吐いたらダメだ』て言ってるちーちゃんが嘘吐いた~」
「別に、…嘘なんて」
「吐いてるよ~。俺には分かるもん。大っ好きなちーちゃんの事だよ、当たり前じゃん」
拗ねた様に唇を尖らせる千尋を見る。
こんな千尋を可愛いと思う。
一昨日の夜の、唇をへの字に曲げて突き出した大希を思い出す。
愛おしいと想うのは大希だけなのだ……あの眸がそう思わせるんだ…
「…千尋」
「うん」
「……誰にも言うなよな」
「うん!ちーちゃんと中塚さんと俺だけの秘密だね」
「絶対に絶対だぞ」
「分かってるって~。それからちーちゃんてさぁ」
「何だよ」
「確実に “抱かれる側” でしょ?」
「うっ、五月蝿い!!さっさと寝ろ!」
手近にあったクッションを千尋に投げつけた。
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