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【4】TALENT side
「大希。お前ちゃんと食ってるのか?また飲んだくれてるんじゃないだろうな」
「食べてますよぉ」
社長の声に嘘八百で答える。
どうせバレているだろうけど。
「センリさんっ!……傍に…居てよ」
あの日、縋る様に言った俺にセンリさんは
「…少し頭を冷やせよ」
そう言って、俺を車から降ろすと帰って行った。
あれから数日が経った。
けれど、センリさんは何ら変わりない態度で俺に接する。
まるで何も無かったかの様に。
気にしているのは俺だけなんだろうか…
時々、無性に泣きたくなる時がある。
センリさんは本当に俺が好きなんだろうか?
俺が想うほどにはセンリさんは俺を想っていないんじゃないか?
いつだって誘うのは俺からだ。
あの人は…仕方なく応えているだけじゃないのか?
本当は…もしかして本当は、センリさんはあのコの事を…!
考えだしたらキリがないのに、一度渦巻いた不安は簡単には消えない。
「あの~、すいませーん」
ドアをノックする音と耳から離れないその声に、事務所の入り口を振り返った。
「あっ、中塚さん!こんにちは!」
其処に立っていたのは天堂千尋だった。
事務所内を見回しても誰も居なくて、仕方なくソファから立ち上がる。
「何か用?」
「あ、あのぅ天堂千里は…」
「ああ、センリさんなら今別室で打ち合わせ中だ」
…ん?……テンドウチサト?
「そうですか。じゃあこれを渡してあげてください。大切な書類だって言ってたから」
手にした茶封筒を俺に渡すと一礼して帰ろうとした背中を呼び止めた。
「ちょっと!」
「はい?」
「今の… “テンドウチサト” て…センリさんの事か?」
「え?はい、天堂千里がちーちゃんの本名ですから」
「…は?…え?本名…て?」
「え?」
千尋が両目をこれでもかと見開いた。
「…中塚さん……ご存じないんですか?」
「…何をだよ」
センリさんの事で俺の知らない事がある。
その事実と、それを千尋が知っている現実が我慢できずにぶっきらぼうに尋ねた。
少しの間、考える様に親指を口元に当てた後、千尋が俺の腕を引いた。
「少し…良いですか?」
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