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先週と同じラジオ番組に出演中、楽しそうに話すセンリさんをそれとなく見遣る。
「中塚大希さんのマネージャーをされていて、 “あ、他の人とは違うな” とか “こういう処がモテるんだな” なんて思う瞬間ってありますか?」
「え~?そうですねぇ」
笑うセンリさんを見ながら、俺も笑う。
けれど、頭の中は先日千尋から聴いた話が忘れられないでいる。
「ちーちゃん…千里兄さんも昔はアイドルだったんです」
「えっ?!そうなの?」
「十代の頃から仕事をしていて、けっこう人気もあって俺の自慢の兄さんで憧れでした。天堂センリはその時の芸名です」
「……何で今はマネージャーを?」
「ある時…襲われたんです」
「えっ?!襲われたって…誰に!どうして!?」
「ストーカーです。兄さんの熱狂的な女性ファンが居たらしく、色んな現場に現れては付きまとってたみたいで、兄さんの事務所も警戒して気を付けてはいたみたいです。でも…それがその女性をさらに執着させる結果になったみたいで…」
「エスカレートした…」
千尋が小さく頷いた。
その口元は、強く唇を噛み締めていた。
「兄さんがラジオ番組に出演した時こっそり待ち伏せしていて、ラジオ局から出てきた兄さんにいきなり刃物で襲い掛かったんです」
「えっ!!刃物って!」
「幸い兄さんに大きな怪我は無かったけど、こういう業界だから…天堂センリに酷いフラれ方した元カノじゃないかとか、騙された可哀想なファンなんじゃないかとか…変な噂が立っちゃって」
「そんな事っ!センリさんに限ってある訳ないだろっ!!」
「当たり前です!ちゃんと分かってる人達や事務所はちーちゃんを守ってくれたんですけど……でも、結局ちーちゃん自身が引退するって決めたんです」
話をしてくれた時、千尋は本当に悔しそうな辛そうな顔をしていた。
それだけセンリさんを慕っているんだろう…アイドルではなくなったけど、今もこの業界に身を置くあの人を心配しているのが痛いくらいに伝わって来た。
センリさんはどうしてこんな重要な事を俺には黙っていたんだろう?
俺には知られたくなかったの?
これほどの事を何も話してくれないなんて……俺はセンリさんにとってどういう存在なんだろうか?
「では、番組の最後にお二人から一言ずつお願いします!」
「え~、これからも俳優でありモデルであり皆さんの憧れであり続けるだろう、うちの大希を!宜しくお願いします!!」
「皆さん、今週も最後まで聴いてくれてありがとう。次は声だけじゃなく俺の姿も見せられる様に頑張るから、それまで待っててね。愛してるよ~!」
胸の中がモヤモヤする。
不安と嫉妬が渦巻いて、上手く笑えているか自信が無い。
「大希、まだ怒っているのか?」
ラジオ局のロビーでセンリさんが俺を振り返った。
センリさんの声が微かに苛立ちを伝えてくる。
「お前さぁ、いい加減にしろよ?本気で…」
その時だった。
「センリさん!!会いたかった!!」
甲高く上擦った声がフロアに響いた。
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