【5】HIROKI & SENRI

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【5】HIROKI & SENRI

その声に、全身が硬直した。 もう聞く事は無いと、もう会う事など無いと思っていた。 「センリさんっ!!」 記憶から完全に消し去ったと思っていたのに、体が、本能が覚えていた。 視界の隅から入り込んで来る人影が過去の恐怖を呼び起こし、ゆっくりと近づいて来るその存在に足が竦んだ。 「…やめ…ろ……来る、なっ…」 フロアの陰から女の姿が現れた瞬間、震える声が微かに聞こえた。 振り返ったセンリさんの顔からは完全に血の気が失せていた。 「センリさんっ!」 固まった様に動かないでいるセンリさんの腕を引いた直後、その女の形相が変わった。 それだけで、この女の名前は知らなくても、この女が何者なのかを理解した。 「センリっ!!」 大希(ひろき)の声に、反射的に大希の方へと駆け寄る。 大希の腕に触れた瞬間、腕を引かれそのまま俺を庇う様に包み込まれた。 「退いてっ!!センリさんから離れなさいよ!!やっとまた会えたのに邪魔しないで!」 その声に思わず強く目を閉じた。 過去の痛みを思い出して、俺を抱き締める腕を強く握り締めた。 「センリさん、センリさん…大丈夫?」 気遣う様な優しい声に、恐る恐る目を開ける。 「……ヒ…ロ…」 「もう大丈夫だよ、センリさん」 にっこり笑う大希に、ゆっくりと息を吐き出す。 大希の背中越しに、数人の警備員に取り押さえられ踠いているその人が見えた。 真っ青な顔のセンリさんは息もまだ荒い。 落ち着かせようと何度もその背を擦った。 「ちーちゃんっ!」 振り返ると血相を変えた千尋が走って来た。 「ちーちゃん!千里(ちさと)兄さん、大丈夫?!」 「……千尋……なん、で…」 「上で騒ぎを聞いたんだよ。千里兄さん、大丈夫?」 「…あ、あぁ…」 「千尋君、悪いけど運転を頼んでも良いかな?」 千尋に車の鍵を渡すと、できるだけ背後をセンリさんに見せない様に注意しながらその場を離れた。
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