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【1】MANAGER side
「え…、ラジオ…ですか?」
「そうだ。君にとっては辛い記憶を思い出させるかもしれないが…どうだろうか?」
「……依頼された仕事なら引き受けるだけです」
社長室を出て真っ直ぐトイレに向かう。
トイレに入ると誰も居ないのを確認してから、洗面台に手をつき大きく息を吐く。
大丈夫……大丈夫だ。アレはもう昔の事だ、終わった事だ…
ゆっくりと顔を上げると、鏡の中に血の気の失せた顔の男が居た。
直後、ポケットの中でスマートフォンが震えた。
取り出して見ると、無邪気に笑う写真と共にメッセージが表示されていた。
“ちーちゃん、今着いたよー!”
その写真に、先刻まで重苦しかった胸がふわりと軽くなったのが分かった。
“無事に着いたか?迷わなかったか?先に渡してある鍵で中に入ってろよ”
メッセージを返すと直ぐに返信が送られてきた。
“もうちーちゃんてば心配し過ぎ!大丈夫だよ。帰って来るの待ってるからねー!”
メッセージに頬が緩むのが分かる。
スマートフォンを仕舞い一度大きく深呼吸すると、両手で頬を叩きトイレを出た。
「おい、ヒロっ!起きろ!新しい仕事が決まったぞ!」
大希の部屋を訪ねると、昼近くだというのにこの天下無敵のアイドル様は相変わらずベッドの中で丸まっていた。
「おい!大希、起きろ!!」
布団を剥ぎ取り、強引に肩を揺する。
「……う~~ん」
「お前また酒飲んで寝ただろ!?顔が浮腫んでるじゃねえか!」
「……うぅ~ぅ、もうちょっと寝かせてよぉ…寝たの明け方なんだからぁ…」
「五月蝿い!何言ってんだ!さっさと起きろ!」
「…うぅ……センリ…さんが…チューしてくれたら起きる…」
「バっ……ふ、巫山戯てないで起きろよ!」
打ん殴ってやろうと振り上げた手は、寸での所で手首を掴まれた。
「あっ…」
そのまま引き寄せられ大希の腕の中で抱き止められると、チュッという音と共に唇に温かい感触。
「おはよ、センリさん」
睨む様にして見上げると、悪戯に成功した子供みたいな笑顔があった。
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