プロローグ

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 ここは、軽井沢。森の奥深く、その別荘は社会から隠れるように建っていた。豪邸に、広すぎる庭、プール付き。大きな門からは、誰も寄せ付けない空気が伝わってくる。その豪邸には、社会に見放され、傷つけられた個性豊かな6人が楽しく暮らしていた。  この別荘の持ち主、時田拓斗の朝は、早い。最近、朝の5時には目が覚めてしまい、コーヒーを飲みながら日の出を見るのが日課となっていた。太陽が空に到達するのを見届けると、シャワーを浴びだし、6人分の朝食を作り始める。  デザートを作っていると、笹乃愛が起きてきた。俺の黒歴史もいろいろと知っているほど、長い付き合いだ。グルメな舌を持つ愛は、今も笑顔で俺の作った朝ご飯を、見ている。  「おはよう、時田君。今日は…焼き鮭と味噌汁にご飯、ワカメとタコの酢の物か。美味しそうだね。これぞ、和食って感じ」  大きく息を吸い込んだ。  「おはよう。今日もデザート付きだから楽しみにしとけよ」  生クリームを泡立てながら言うと、「やったね!」と喜んだ。  「何か手伝おうか?」  笹野が、聞く。  「じゃあ…味噌汁、頼んでいいか?」  お玉を渡すと、笹野愛は頷き、お椀によそい始めた。  作ったデザートを冷蔵庫に入れると、緒方駿が起きてきた。6人の中で一番の年下。マイペースで、頑張り過ぎちゃう部分もあるが、自分をしっかり持っている。俺が嫌いな虫を持ってきて、少年のように笑っている時もあるが、進んで手伝いをしてくれる、いいやつだ。この中で一番年下だから、よくいじられているが、俺はすごく頼りにしている。  「おはよう!とっきー、愛」  そう言いながら、欠伸を1つした。駿が、俺を『とっきー』と呼ぶのは、囃し立てる3人がいない時だけだ。俺は、それがうれしかったりもする。  「駿、おはよう!ご飯、頼んでもいいか?」  しゃもじを渡すと、もう1つ欠伸をしてから受け取り、茶碗にご飯をよそい始めた。  使い終わった調理器具を洗っていると、清宮敦彦が起きてきた。お調子者で場を盛り上げまくり、他のやつらに面倒くさがられることもあるが、その場にいないと寂しくて、疲れた時には、笑顔が欲しくなる。弟のような存在だ。  「おはよう!時田君、笹野君、駿ちゃん。駿ちゃん!夜の間は俺に会えなくてさみしかったでしょう?」  挨拶をすませると、ご飯をよそう駿に抱き着きに行った。  「うんうん、寂しかった」  苦笑いを浮かべながら、ご飯をよそい続ける。  「敦彦!駿に抱き着く暇があったら、残りの2人、起こしてきてくれないか?」  敦彦を駿から引き剥がすと、そう言った。  「俺と駿ちゃんの時間を邪魔するなよな…。嫌だよ…あの2人、なかなか起きねーもん!」  俺のことを恨めしい顔で見ると、両手を左右にぶらぶらさせながら駄々を捏ね始める。  「いいから行って来いよ!2人だって、清宮が起こしに来るの、なんだかんだ言って楽しみにしているんだからさ…」  敦彦の肩に手を置くと満面な笑みで2階へと駆け上がって行った。俺と笹野と駿は、顔を見合わせると笑った。
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