45人が本棚に入れています
本棚に追加
遠藤先輩は、気が付くといつもこちらを見ている。
それに気づいて声をかけても、
「何ですか」
「なんでもない」
と、ぷいと顔をそらされるだけだ。
スタート位置につく先輩を見る。
しなやかな足、ゴールを見つめる真剣なまなざし。
スタートすると、誰よりも速く風を切って走る先輩を、
いつも僕は、きれいだ、なんて思ってる。
結局、いつも先輩がこちらを見ていることに気づくというのは、
それ以上に自分が先輩を見ているからなのだと思う。
帰り道、家が近い僕と先輩は同じ道をたどって帰る。
すっかり暗くなった空に満月が浮かんでいた。
「真島くん」
「何ですか」
「…あのね、私のことどう思ってる?」
「は?」
予想外の質問に、驚いて先輩の顔を見る。
先輩は真剣な顔でこちらを見てた。
僕は、きゅ、と唇を結ぶと、
「陸上部の先輩」
と言った。
その瞬間、先輩の表情が落胆に染まる。
ごめん、と心の中でつぶやいた。
―――ねぇ先輩
僕には、秘密があるんだ。
僕は生まれつき、人の心が読める。
先輩のような心理学の類ではなく、テレパス能力として…。
だからね、先輩。
僕はまだもう少しだけ、我慢するって決めているんだ。
もう少し、もう少しだけ…。
先輩が自分の本当の気持ちに
きちんと気づくまで。
最初のコメントを投稿しよう!