【超短編】秘密

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遠藤先輩は、気が付くといつもこちらを見ている。 それに気づいて声をかけても、 「何ですか」 「なんでもない」 と、ぷいと顔をそらされるだけだ。 スタート位置につく先輩を見る。 しなやかな足、ゴールを見つめる真剣なまなざし。 スタートすると、誰よりも速く風を切って走る先輩を、 いつも僕は、きれいだ、なんて思ってる。 結局、いつも先輩がこちらを見ていることに気づくというのは、 それ以上に自分が先輩を見ているからなのだと思う。 帰り道、家が近い僕と先輩は同じ道をたどって帰る。 すっかり暗くなった空に満月が浮かんでいた。 「真島くん」 「何ですか」 「…あのね、私のことどう思ってる?」 「は?」 予想外の質問に、驚いて先輩の顔を見る。 先輩は真剣な顔でこちらを見てた。 僕は、きゅ、と唇を結ぶと、 「陸上部の先輩」 と言った。 その瞬間、先輩の表情が落胆に染まる。 ごめん、と心の中でつぶやいた。 ―――ねぇ先輩 僕には、秘密があるんだ。 僕は生まれつき、人の心が読める。 先輩のような心理学の類ではなく、テレパス能力として…。 だからね、先輩。 僕はまだもう少しだけ、我慢するって決めているんだ。 もう少し、もう少しだけ…。 先輩が自分の本当の気持ちに きちんと気づくまで。
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