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私には気になる人がいる。
陸上部の後輩の真島くんだ。
私はストレッチをしながら、ひっそりと真島くんを見つめる。
サラサラの髪に、長いまつ毛。身長は私より10cm高いが、細身なので、もっと高く見える。
そのくせ、胸板とか、腕とか、やけに男の子っぽい。
…なんだかずるい。そう思って私は唇を噛んだ。
そして何より、腑に落ちないのが、
「何ですか」
「なんでもない」
私がそっと盗み見ているつもりでも、いつも真島くんに見つかってしまうのだ。
私はぷい、と顔をそらして、ストレッチの続きを始めた。
―――ねぇ真島くん。
私ね、秘密があるの。
私の父は有名な心理学者で、母は精神科医をしている。
そんな2人を両親に持つせいか、私はすでに心理学関連の本をすべて読破していて、相手の顔、目、表情から、相手の気持ちが分かるのだ。
ただし、真島くん以外の…。
理由はよくわからないけど、真島くんの心だけ読めない。
それは、たぶん、真島くんの完璧な無表情のせいだと思う。
だからきっと、彼の想いだけが読み取れないのだと、そう思っていた。
思っていたのだけど…どうも最近、それだけではないような気がしていた。
今まで、誰の心も読めるのが当たり前だった。
鬱陶しいと思ったこともあったが、分からないと分からないで気になるものなのだと、真島くんに出会って初めて知った。
彼の心が気になる。すっごく気になる。
これは恋? 私にはまだわからない。
私はまたじっと走る真島くんを見た。
「こら! 遠藤! お前、次だぞ!」
顧問が私の名を呼び、私は、身体が跳ねる。
真島くんを見ている間に、私が走る番がやってきていたようだ。
私は真島くんから目線をそらせて、スタート位置についた。
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