黄泉の時間

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黄泉の時間

私の母は、2年前、亡くなった。 不幸な事故だった。 私はある日、図書館である本を 見つけた。 タイトルが「死者との会話」だったので、私は、フィクションの 小説だろうとページをめくった。 〈夕暮れ時に夕焼けを見て、祈る。  死者はやがて甦り、少しの時間  だけだが、会話ができる。〉 〈これはフィクションではない〉 「えっ……フィクションじゃないの?」 〈私がずっと受け継いでいる  伝説だ〉 〈私はその時間を「黄泉の時間」と  呼んでいる〉 その本は、小説ではなく ノンフィクションの本で、 作者の思いを書いているエッセイ だった。 「これが本当なら……」 私は、夕暮れ時を待って、 夕焼けを見上げながら強く願った。 「お母さん……!」 すると、私の目の前は光に包まれ そこに一人、女性が立っていた。 「お母さん……!」 私は涙で顔が濡れていた。 私は、母と話すことが できた。 だが、夕暮れ時が終わると 私の周りの光は消えていた。 「あれ…私、何しているんだろう」 光と共に、記憶も消えていた。 あのエッセイには続きがあった。 〈死者と会話ができるのは  夕暮れ時が過ぎるまで。〉 〈ただし、当人の記憶は   消えてしまう…〉 それが、 昼と夜の間、夕暮れ時の一瞬だけの 伝説だ。
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