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序
今思えば、何年か前からこの気象変動の兆候はあったような気がする。
それまでは、夏は必ず毎年うんざりするくらいの猛暑になって、それが秋までずっと続いて、みんなヘトヘトになりながら暑さが過ぎ去るのを待っていたのだが、いつの頃からか猛暑の期間が短くなったような気は、なんとなくしていた。
やがて夏が終わり、夏が延びた分だけ短くなった秋が訪れ、次に冬になるが、その寒さが一頃よりもやや厳しいように感じられることが多くなっていった。
しかし、初めの頃の変化はとても小さかったし、寒くなるばかりでなく、たまに以前のように暖かくなったりもするので、今年の冬も去年とそんなに変わらないと、みんな思っていたと思う。
でも、それが三年四年…と続くうち、違和感を訴える人がちょこちょこ出てきた。当時のSNSには、国を問わず、こんな感じの投稿が割といっぱいあったようだ。
“ここ数年、なんか気象がおかしくない?” “夏に涼しいのはありがたいけどね!” “え~、全然涼しくなんかないよ” “みんながCO2削減に努力した結果さ” “環境汚染は相変わらずなんだけど…”
そのような時に、専門の研究機関が、地球規模で氷河期に突入したことを宣言した。説妙なタイミングだったと思う。
科学者たちによると、これまでにも地球には何度か氷河期が訪れており、今回の氷河期もそれらと同じものであるらしい。
でも、現在分かっているのはそれだけで、今回の氷河期がどのくらいの時間続いて、どのくらい温度が下がるのかなど、詳しいことは全く分かっていない。もしかしたら十年くらいで終わるかもしれないし、もしかしたら百年以上または千年以上続くかもしれない。
寒冷化の規模も、「なんか寒いぞ。」程度で済むかもしれないし、海水が北極大陸みたいに固く凍るくらい冷えるかもしれない。
あの発表から、すでにもう何年も経った。氷河期に入る前の数年間は、世界は海水温の上昇で年々大型化していく台風の脅威や新型ウィルスの流行などいろんなことで混乱していたが、氷河期の到来でさらに混乱した。そして、いろんなことがいろんなふうに変わった。
初めの頃は、やはり氷河期であっても以前と同じ暮らしをしようとする動きがあった。しかし、地球規模で起こっている気象変動に、人間が多少ジタバタしたからといって到底太刀打ちできるものではなかった。
今だから言えるのかもしれないけれど、氷河期の到来で引き起こされた変化は、悪いものばかりではないと、個人的には思っている。それが証拠に、私は今も生きていて、氷河期ライフを楽しんですらいる。
こうなってしまったからには、自然に身を任せて、冬は半分冬眠するようにして過ごすのが一番良いのだ。
いつかテレビで見た、自分の巣穴に枯れ葉を集めて、その中で冬眠していた野生のリスだって、口元に笑みさえ浮かべて、本当に幸せそうに冬眠していたのだし。
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