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一年目 十二月中旬
「それにしても、これはないよね。」
窓の外とテレビのニュース番組の両方を見ながら、私はひとり言を言った。テレビでは、首都圏およびその周辺の広い範囲の地域が大雪に見舞われ、交通機関が麻痺し、人々の生活に多大な影響を与えていることが、長い時間をかけて大騒ぎと言っていい勢いで伝えられている。
今日は十二月十七日、時刻は朝の六時五十分。もうすぐ冬至になる時期なので、この時刻になってやっと太陽が昇って空が明るくなってきた。
明るくなったと言っても、雪が降っているのは私が住んでいる東北地方の太平洋側の地域でも同じなので、空は分厚い雲に覆われてどんよりと薄暗い。
しかし、私はこの状況を嫌がっている訳ではない。子供の頃から、雪が降るとなぜかわくわくした。小学校一年生の時に、冬休みに入ったとたんに大雪が降って、雪の重みで電線が切れて、地域一帯が停電になったことがあった。不謹慎ながらも、この大停電は私の子供時代の楽しい思い出のひとつである。
地球が氷河期に突入したことが発表されたのは、ちょうど2か月前の10月半ば頃だった。北半球に位置する国々は、今まさに今氷河期初の冬を迎えているのだ。
氷河期が到来したことに対する、世界各国の反応は様々だった。日本の反応はどちらかというと大袈裟なほうだったかもしれない。
そして日本の人々の心配または期待通り、十二月のまだ本格的な積雪シーズンに入っていない時期にも係わらず、昨日から関東地方以北の広い範囲で大雪になった。この大雪で、氷河期の到来を実感した人は多いかもしれない。
天気予報の気象情報によると、今私が住んでいる地域の積雪は三十五センチだそうだ。こんなに降ったのは何年ぶりなのだろう。
東京都心部の積雪は二十センチだそうだ。十年以上前、関東甲信越地方を中心に大雪が降って大混乱になったが、今回はそれを上回る可能性があるらしい。
その時の大雪は、確か週末だった。当時、私は東京都内に住んでいたので覚えている。だが、今回の大雪は平日だ。
「こんな時なんだから、会社も完全にお休みにしちゃえばいいのにねえ。」
テレビの映像には、地下鉄の駅でたくさんの通勤客が列を作っている様子が映し出されていた。JRや私鉄などは昨日の時点で運休することが発表されていたが、一部の地下鉄と都バスは辛うじて動いているようだ。首都圏周辺のほとんどの小中学校や高校は、すでに休校になっているらしい。
新型ウィルスが流行した時、たくさんの会社がテレワークを導入して、かなりの率で定着したと言われている。それでも、会社まで通勤しなければいけない人はこんなにたくさんいるのだ。
狭い地下鉄の構内には、改札口から地上に出る階段まで、列を作る人達がぎっしり詰め込んでいた。ホームの様子までは映していないが、きっとホームも同じように人が溢れているのだろう。駅の外の屋根のないところにまで人が並んでいないのが救いかもしれない。
こんなふうにして地下鉄に乗ろうとしている人達は、テレワークで対応できない仕事に就いている人なのだろうか。または、仕事が忙しいなどの出社せざるを得ない事情があるのだろうか。
長い列を作って地下鉄に乗る順番を待つ人達の姿を見ながら、私もほんの一年半前までは、都内で会社員として働いていたことを思い出した。
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