一年目 十二月中旬

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 私は今、働いていない。ちょっとしたアルバイトさえも一切やっていないから、本当に全くの無収入である。こっちに帰って来てからこんな生活が続いたお陰で、頭の中はすっかりのんびりモードになってしまった。  会社に行かず、かと言って学校や趣味の集まりなどにも属さず、一人暮らしなので家族のためにやらなければいけないこともない。こういう状態だと、一日中、自分のしたいことを好きな時にすることができる。  たまに退屈だと思うこともあるが、小旅行や買い物などの気分転換はいつでもすることができる。一人であるということは、なんと自由なのだろう。  日が昇れば目が覚めて、暗くなったら数時間以内に眠りにつく。こんなふうに、太陽の動きに合わせた生活をしていると、自分はまるで野生の動物、または植物のようだと思う。さっき、“のんびりモード”と言ったが、もしかしたら“野生モード”と言ったほうが近いかもしれない。  こんな生活がいつまで続けられるのかは分からないが、今はこの一人だけの静かな生活を噛みしめたい。  しかし、こんな私でも、人間として生きているからには、やらなければいけないことは毎日何かかしらある。今日の場合は雪かきだ。一人暮らしなので、家のことは全て自分一人でやらなければいけない。  だが、この雪かきも、何時何分までに終わらせなければいけないとか、絶対にこういうふうにやらなければいけないといった決まり事は、私が作らない限り存在しない。生活に必要な労力を、全て自分一人で担わなければいけないという部分を考えると気が重くなることもあるが、この点は気楽である。  私は早いうちに雪かきをしてしまいたくて、朝食を摂る前に、水をはじく素材でできたフード付きのジャンパーを着、長靴を履いて玄関の戸を開けた。雪はいまだにこんこんと降っている。  玄関のすぐ外は、雪が三十五センチの高さにこんもりと盛り上がっていて、大福かケーキのクリームを思わせた。  うちの前にある道路は、早朝に除雪車が通ったのでところどころアスファルトが露出していた。この辺りの道路は、昔景気が良かった時に作り直されている。そのため道幅が広くて、歩道も片側だけのところが多いが、一応ちゃんと付いている。  これから自分が今立っているところからあそこまで、人が通れるように道を作るのだ。そんな気分で見ると、玄関から道路までの距離がいつもよりも遠く感じられる。  雪かき用のスコップを雪の中にさし込み、すくって持ち上げて脇にどかす。雪の重みがずっしりと腕にかかる。明日は筋肉痛になるだろう。  こんなにたくさん積もってなければ、雪をスコップに乗せたら、地面の上を滑らせて隅っこにどかせるだけで済むのだが、雪の量がこんなに多いとそうもいかない。一人で愚痴を呟きながら雪をかく。  十分くらいで、玄関から車道までの間に、人一人が通れるくらいの道を作ることができた。でき上った道は、はたから見ても丁寧な仕事とは言えなかったが、これで良しとする。雪に降られながらの力仕事なんて、手早く終わらせるに限る。  清々しい達成感を味わいながら空を見上げると、ほんの少しだが、さっきよりも空が明るくなっていた。雪もほんの少し小降りになったような気がする。
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