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第3話 用件
客間に通された三人は長女の雅を待っていた。間もなく雅がやって来た。雅は50歳をとうに過ぎていた。結婚して姓は京極となっている。
「わざわざ申し訳なないですね。」雅が挨拶した。
「この度はお悔やみ申し上げます。」田所が挨拶する。
「ありがとうございます。故人も長く患っておりまして、自宅で逝去して本望であったかと思いますわ。」
「そうですか。」田所が言った。
「実は父の所有物からこんな物を見つけましてね。」
雅は黒い小箱を出した。漆で塗られた上質な箱からルビーの指輪が出てきた。ピジョンブラッドだ。10カラットはありそうだった。
「これを碧さんに鑑定てもらおうと思って。」雅は宝石を碧の前に差し出した。
「見事な真っ赤なルビーですね。石の感触から天然石だと思います。でも僕は鑑定士ではありません。宝石商をお呼びになられた方が宜しいでしょう。」碧はルビーを間近で見ながら答えた。
「何を言ってはりますの。」雅は京都弁で言った。「碧さんの目利きは確かやないですか。」
そこにお茶を運んできた家政婦の中野がハッとした形相になった。
「雅様。それは旦那様が一緒に燃やしてくれて言われた指輪です。」
「あんた、何を出しゃばってはりますの?」雅は一括した。
「でも、それは....」
「仕事に精を出すのも程々にせんとな。お下がりなさい」雅は中野を睨みつけて言った。有無を言わせない態度であった。
中野は何かを言いかけたが結局は部屋を出ていった。
「家政婦がみっともない所見せてしもうて、済みませんね。」雅が言った。
「で碧さんの見識はどうでしょう?」
「失礼ですが、これは故人がご遺体と共に燃やしいて欲しいと言われたのではないですか?」碧は尋ねた。
「さぁ。遺書には何も書いてありませんでしたわ。」
「そうですか。畏れながら率直に申し上げます。僕も燃やしてしまった方が良いと思います。」
「ほう?」雅の目が細くなった。
「この指輪の謂れについて何もお聞きになってはいないのですか?」
「ないですわ。父がこれを所有したいたことさえ知りませんでしたわ。」
「なる程。ではお聞きしますが、この漆の宝石箱は元々紫の袱紗で包まれて金の紐で縛られてあったのではなかったのですか?」
雅は驚いた顔をした。
「へぇ。よく知ってはりますな。そうです。その通りですわ。だから袱紗と紐は棺に入れましたわ。」
「悪い事は言いません。指輪も焼却した方が良いです。この指輪は主を選びます。だからずっと袱紗に包まれてあったのでしょう。災いが起きても知りませんよ?」
「はぁ。災いですか。そうですか。」雅は考える仕草をした。
「ようわかりました。なる程ねぇ....」そう言いながらルビーの指輪を小箱にしまった。そして思い出したかのように言った。
「ああ、そうそう。忘れておりましたわ。もう葬儀が始まりますわ、うっかりしておりました。今日はこの辺で。どうもありがとうございました。」
雅はもうお引き取り下さいとばかりの態度をした。
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