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第5話 雅
葬儀のあった夜、雅は夫と自宅で話していた。
「今日は疲れたわ。あーしんどぅ。」
「親父さんが亡くなって、しんどいはないだろう。」夫が窘めた。
「そやかてなぁ。父に対して特に愛情なかったし、変わったお人でしたからなぁ。」「家政婦なんかに入れ込んで恥ずかしい限りですわ。」
「遺言書を義兄さん破いたんだって?」
「そりゃ兄さんも腹立てますって。滋子なんぞに全財産を相続させるなんて気が狂ったとしか思われへんやん。」
「兄嫁も相当腹黒いんで相続もどうなるもんかしら?気が気でないわ。」
「穏便に片付くといいが。」
「滋子には家政婦辞めてもらいます。もうあの家には誰もおらんし。縁が切れてせいせいするわ。」
雅は憎々しそうに言った。
雅はふとあることを思い出した。
「そうや、見て。この指輪。」
雅は夫にルビーを見せた。
「立派なルビーじゃないか?お義父さんの物か?」
「そうです。滋子が持っていたのを見付けたの。あの女これを持ち逃げしようとしていて。」
「滋子さんは長年家に仕えていたのだろう?それくらいいいんじゃないか?」
「何を言うてはりますの?人の好い。あの女の好きにはさせへんわ。」
夫はこれ以上の深入りはヤブヘビだと判断し、追及することを避けた。夫は雅の性格をよくわかっている。
彼女は父の内縁の妻には財産を分けるつもりはないのだ。
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